アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#25
2015.01

工芸と三谷龍二

後編 生活工芸から、その先へ
7)周縁を見せる 瀬戸内生活工芸祭2

2014 瀬戸内生活工芸祭 女木島作家プログラム「暮らしのなかの有用と無用」展を企画。作品もよかったが、作家同士が深く関わり、先に繋がる展覧会となった。オフィシャルブックとして「生活工芸の時代」刊行(共著・新潮社)

第2回目のテーマとして、三谷さんは「周縁」を選んだ。1回目の中心に対し、「これも生活工芸」という表明であった。

——辺境はいちばんエッセンスが出ると思っているので、これ以上いくと、工芸じゃなくてアートになってしまうような、ぎりぎりの5人を選んだ。前回の「中心」も今回の「辺境」も、どちらも好きな人たちで、僕の好きな両面でもあるんだよね。それを出せば生活工芸がわかるんじゃないかと思った。別に、生活工芸と言わなくてもいいんだけど。

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瀬戸内生活工芸祭 2014
9月20日・21日
会場:香川県高松市「玉藻公園」「女木島」
総合ディレクター / 三谷龍二
ディレクター / 石村由起子
主催 / 瀬戸内生活工芸準備室
共催 / 高松市
■女木島作家プログラム
•島の家の6つのギャラリー
恩塚正二・岩谷雪子・ナカオタカシ・熊谷幸治・吉田次朗 +「M氏の生活工芸」展
■野外クラフトフェア(作家61名)+せとうちマルシェ
■島のミュージアムショップ・おいしいリレー

公募で決める作家は1回目が87名、今回は61名だった。松本では出展者が多すぎて、いつも見きれないことが気になっていたから、ここでは作家と言葉を交わし、ゆったり見られることを大切にしたかった。また飲食も讃岐の食材で、地元中心の内容にした。また三谷さんが“周縁”と呼ぶ作家5人の展示はすべて女木島で。展示の仕方もボリュームも、ようすを見ながら構成していったのだった。
前回との大きな違いはもうひとつある。第1回目は県から900万ほどの助成金があったが、2回目はそれをもらわなかった。お金をもらうということは、内容にコミットされるということでもある。自分たちの思うような「生活工芸」をもっと進めたかったから、2回目は入場料と出展者の募集参加費だけでまかなうことにした。

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(左上から時計回りに)高知のアーティスト・松林誠さんとファッションブランド「STORE」のコラボレーション。愛らしく楽しい / 登由香さんの繊細な消しゴムスタンプ /「素描屋」しゅんしゅんさんの絵は大人気。じっくり話を聞いてから描き始める / 地元の明治20年創業のいりこやさん「やまくに」のいりこちくわサンド。揚げたて! / 木のテーブルや椅子なども、すべてスタッフの手づくり。すみずみまで心の行き届いた、温かみのあるフェアだ / 高松の海辺のカフェ「umie」は、瀬戸内の果物を漬け込んだソーダや地元素材にこだわったスコーンなどを / 杉田明彦さんは、モダンなフォルムと質感の黒の漆器を制作する

(上から)高知のアーティスト・松林誠さんとファッションブランド「STORE」のコラボレーション。愛らしく楽しい / 登由香さんの繊細な消しゴムスタンプ / 杉田明彦さんは、モダンなフォルムと質感の黒の漆器を制作する / 「素描屋」しゅんしゅんさんの絵は大人気。じっくり話を聞いてから描き始める / 高松の海辺のカフェ「umie」は、瀬戸内の果物を漬け込んだソーダや地元素材にこだわったスコーンなどを / 地元の明治20年創業のいりこやさん「やまくに」のいりこちくわサンド。揚げたて! / 木のテーブルや椅子なども、すべてスタッフの手づくり。すみずみまで心の行き届いた、温かみのあるフェアだ

さて、女木島に出現した、生活工芸の「辺境 / 周縁」はどのようなものだっただろうか。高松に対して、島はそもそも周縁なのだが、そこでの展示は想像以上にのびのびとし、島に溶け込んでいた。
海辺に沿って歩いていくと、自然にはない質感の小さな小屋と、連続したポールが突如見えてくる。FRPというプラスチック素材で制作をするナカオタカシさんが海辺につくりだした、不思議な景色だ。物置小屋や浴場を使って、島の植物の思いがけない表情を引きだしたのは岩谷雪子さん。島を何度も訪れて植物を採集し、ほんの少しだけ手を加えた作品は、ひっそりと息づき始め、ユーモアもはらむ。土の調達から窯づくりまで、すべてを島で行い、土器を焼いていたのは熊谷幸治さん。島の自然と一体となり、一から手づくりしていくすがたは、それこそ三谷さんのいうロビンソン・クルーソーのようでもある。
どの作品も、ゆったり流れる島の時間とおおらかな自然に身を置くことで生まれた、生活の実感から出てきたものづくりではないだろうか。

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(上から)造形作家のナカオタカシさんが制作したFRPのオブジェ。海辺の景色を一瞬にして変えてしまう / 吉田次朗さんは土・ハリガネ・ブリキなどで、器・オブジェ・モビールなどを制作する多彩な作家。海辺の家に自身の作品を展示した / 土器作家の熊谷幸治さんは女木島で土を集め、窯をつくり、土器を焼くドキュメントも上映。会期中も土器を焼き続けていた / 身のまわりの植物を使って作品をつくる岩谷雪子さん。島に何度も通って植物を採集し、はっとするすがたを引き出し展示した /こんなユーモアあふれる表情も / 吉田さんと熊谷さんは海辺で拾ったがらくたも展示。朽ちたものたちが魅力を放つ

(上から)造形作家のナカオタカシさんが制作したFRPのオブジェ。海辺の景色を一瞬にして変えてしまう / 吉田次朗さんは土・ハリガネ・ブリキなどで、器・オブジェ・モビールなどを制作する多彩な作家。海辺の家に自身の作品を展示した / 土器作家の熊谷幸治さんは女木島で土を集め、窯をつくり、土器を焼くドキュメントも上映。会期中も土器を焼き続けていた / 身のまわりの植物を使って作品をつくる岩谷雪子さん。島に何度も通って植物を採集し、はっとするすがたを引き出し展示した /こんなユーモアあふれる表情も / 吉田さんと熊谷さんは海辺で拾ったがらくたも展示。朽ちたものたちが魅力を放つ

三谷さんはパンフレットに女木島のプログラムについて、こんな文章を寄せている。

‥‥‥今年は女木島にある6つの古い家を会場にして、6つの展覧会を開催します。そこには暮らしに「有用」で美しいもの、そして「無用」だけれど、こころを解放し、気持ちを楽しませてくれるものが展示されるでしょう。ただ言えることは、そのどちらもが、私たちの暮らしに「必要」なものだということです。

有用なものの裏返しは、アートに近いものづくりとも言えるだろう。彼らは狭い意味でのアートをやろうと思っているわけではないが、実用的なものづくりから、どうしてもはみ出し、にじみ出る部分があるのだと思う。そして、その両面があってこそ生活工芸なのだ。第2回の女木島の展示は、生活工芸のふくらみを体感させてくれたのだった。