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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#23
2014.11

スローとローカル これからのファッション

後編 つくり手たちの現在
終わりに きちんと、自分でつくること

後編では、三者三様の話を聞き、服づくりの現場で起こっていることの一端をかいま見ることができた。
東京から地方へ向かう動きについてもそれぞれだ。スズキタカユキさんは東京と根室を行き来しながらものづくりしようとしている。彼は根室に自然や光、創作へのインスピレーションを求めていた。アパレルを取り巻くシステムが変化しつつある現在、東京にこだわる必要はなくなりつつある。
実際に岡山に移住した山本哲也さんは、地方のほうがものづくりがしやすいと語る。原発事故という事情はあったが、自分でつくったものを自分で売りたい山本さんにとって、地方移住はありうる選択だった。しかし、地方都市に行くにしても、服づくりに適している環境なのかどうか、熟慮する必要があることも彼の話から見えてきた。
一方、地方でブランドを続けてきた側として、森蔭大介さんはつくったものをどう買ってもらうか、考えぬいてきた。大きな市場がない場所で、インディペンデントのデザイナーがやっていくには、自分なりの仕組みを構築していくことが必要である。しかし、それは地方に限らず、現在のデザイナーが多かれ少なかれ直面している状況なのかもしれない。
3人はまったく違うタイプのつくり手であり、ブランドの大きさも目標も異なるが、ファッションの常識を疑い、自分にしかできないものづくりを真摯に追求してきたところは同じである。彼らは顧客とのコミュニケーションを深め、大量生産品にはないクリエイティブな価値を育てあげてきた。
自由なものづくりをするために、自分たちに適した場所を求めていく発想も共通するかもしれない。東京の優位はそう簡単には揺らぐものではないものの、インターネットやSNSにより、地方のメリットを活かしながら働くことはこれからのつくり手にとって、リアルな選択となることは確かである。

前編・後編を通して地方やインディペンデントなファッションの現況を見てきたが、ローカルをとりまく厳しい現実を再認識することになった。ローカルファッションの動きはまだ微々たるものにとどまっているようだ。しかし、だからといって絶望する必要はない。いずれの場所にも、それぞれの理想や志を抱いて、目の前の壁を乗り越えようとするつくり手や伝え手の姿があった。彼らは地方を再生・活性化させるといったソーシャルな大志からではなく、自分たちのものづくりを充実させたいという思いから行動している。話のなかで「きちんとものをつくる」という発言を何度も聞いたが、そのような思いが強く持たれていることは何よりの希望である。新しいファッションをつくろうとする動きは、こうした場所から生まれてくる、そんな予感とともに取材を終えることができた。
最後に、特別編として服を表現手段とするアーティスト・西尾美也さんのストーリーをお読みいただきたい。スローファッションのカテゴリーではないかもしれないが、服の可能性を問い直そうとする西尾さんの考え方は若い世代ならではのものであり、これからを考えるヒントが示唆されている。