アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#23
2014.11

スローとローカル これからのファッション

後編 つくり手たちの現在
4)地元・京都で、ぶれない姿勢で
モリカゲシャツ 森蔭大介1

京都の御所近くにあるモリカゲシャツ キョウト。大きな一枚ガラスの扉を開けば、こざっぱりと清潔感ある店内に、ベーシックで遊び心にあふれるカジュアルシャツが並んでいる。御所近くとはいえ、まちなかからは離れた場所にあり、ふらっと客が入ってくるような立地ではない。しかし、モリカゲシャツがフルラインで揃っているこの店舗を目指して、全国から顧客が集まってくる。
モリカゲシャツは森蔭大介さんが1997年にオープンした、シャツ専門のブランドである。立ち上げた当初はオーダーがメインだったが、近年は既製シャツにも力を入れている。週末限定のかまくら出張所、東京や地方でのイベント、オンラインショップでも買うことはできるが、丸太町のショップが売り上げの主力となっている。それはモリカゲシャツは京都でつくって売るというポリシーによるところが大きい。
このかたちができあがるまでは、試行錯誤の積み重ねだった。森蔭さんはもともと京都出身で、高校を出て東京の文化服装学院に学んでいる。夜間に通いながら、昼間は生地屋でアルバイトをしていた。彼が文化を卒業するときはまだバブルの名残りがあり、就職課には求人票が山のように積まれていたが、東京で仕事することにまったく気持ちが動かず、すぐに京都に戻っている。
そのころから森蔭さんはオーダーの仕事をしようと決めていた。とはいうものの、京都にあてがあったわけでもなく、戻ってきてもすることがない。パターンをつくったり、切ったり縫ったり、下請け仕事をやり始める。お願いされたものは何でもつくっていたのである。
あるとき、森蔭さんが自作のシャツ着ていたところ、顧客の目にとまりオーダーの依頼を受けた。それをきっかけに、シャツのブランドをつくろうと思いつく。

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(上)京都店の店内。すっきりと美しい空間だ(下)森蔭大介さん

——そもそも、自分でつくってお客さんに渡すということがやりたくて京都に戻ったんです。それを東京でしても埋もれてしまうとも思いました。お客さんに見つけてもらわないといけないですから、そのためには自分のやってることをわかりやすく提案していこうと。京都でオーダーを始めた当初は珍しかったこともあり、雑誌で取りあげられたり注目はされましたが、ものすごく反応があったわけではなかったです。ですから、もっとわかりやすくするために、シャツのオーダーに絞ったんです。もともと、シャツが好きでしたし。京都、シャツ、モリカゲ、みたいに見つけてもらえるんじゃないかと思ったんです。

当時オーダーシャツの分野は紳士向けワイシャツしかなかった。仕事で着られるカジュアルシャツといえば、コムデギャルソンのシャツくらい。仕事場用のカジュアルシャツをつくるというアイデアは、今から見るとかなりの先見の明だったといえよう。
当初から森蔭さんは京都に住まいながら商うというスタイルにこだわった。京都ブランドの価値を使うという戦略もあったが、それよりもお客さんにシャツを実際に見て、試着して買ってほしいという気持ちからだ。モリカゲシャツがメディアに注目され、東京の大手百貨店やファッションビルから出店要請があったときも、考えた末に断った。

——基本は京都のお店で買っていただきたいんです。卸売りをしたり、通信販売を拡大したりすればもっと売れるかもしれませんが、それをするとつくり手と買い手の距離がどんどん遠くなってしまう。とはいうものの、うちのお客さんは全国にいて、特に関東方面が多いんですね。買い方はいろいろで、絶対に京都に来て買う方、通販と併用する方、イベントに来て買う方と、皆さんそれぞれです。そんなに京都には来られない方のことを考えて、年1回、東京でイベントをしたり、鎌倉に小さな店もつくりました。週末限定、5坪ほどの規模ですが、住まいながら商える京都と似ているというのがあって、鎌倉にしたんです。東京で店を出すなら、東京の流儀に従わないといけませんから。
販売のチャンネルが増えるほど、着ていただける機会が増えるのはわかっています。でも僕たちが管理しきれなくなると、接客にしても商品の説明にしても、絶対薄まってしまうので。

モリカゲシャツは顧客の修理に応じたり、以前買ってもらったサイズを記録に残すなど、きめ細かでパーソナルなサービスをおこなっている。それは顔の見える距離でものを売りたいという森蔭の思いによるものだ。だからこそ、ひとたびモリカゲシャツの顧客になると、その関係は長く続く。不況になろうと服が売れなくなろうと、客との関係がしっかり確立されているモリカゲシャツは左右されない。
また、東京に出店しないのも、住まいながら商うことを始め、ブランドのもっとも大事なものが失われると考えるから。絶対東京に出ないと決意しているのではなく、ブランドのポリシーを貫くがゆえの選択なのだ。