アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#23
2014.11

スローとローカル これからのファッション

後編 つくり手たちの現在
2)衣服の可能性を拡げる アートとファッションの両面から
suzuki takayuki スズキタカユキ2

スズキさんにはアーティストとしての顔がある。映画や舞台の衣裳を担当するだけでなく、ダンサーやミュージシャンとともに舞台に立ち、その演技・演奏に寄りそいながら、彼らのからだに布を巻きつけたり、大胆にはさみを入れたりして、空間を即興的に布で造形していくパフォーマンス活動などもおこなっている。東京造形大学でアートを学んでいたスズキさんにとって、アートとデザインのあいだを行き来することは、それほど不自然なことではないのだ。

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(上から順に)スズキさんと「CINEMA dub MONKS」のガンジー西垣さん(中)、曽我大穂さん(右)の3人 / スズキさんが布にハサミを入れ、縫い合わせ、2人の体に巻きつけていく / 一枚の布が立体的なかたちになっていく。鮮やかな手さばき / 2014年1月より「CINEMA dub MONKS」と照明作家・渡辺敬之さん、スズキさんは「仕立屋のサーカス / circo de sastre(シルコ・デ・サストレ)」と名乗り、公演を始めた(photo : ryo mitamura)

(上から順に)スズキさんと「CINEMA dub MONKS」のガンジー西垣さん(中)、曽我大穂さん(右)の3人 / スズキさんが布にハサミを入れ、縫い合わせ、2人の体に巻きつけていく / 一枚の布が立体的なかたちになっていく。鮮やかな手さばき / 2014年1月より「CINEMA dub MONKS」と照明作家・渡辺敬之さん、スズキさんは「仕立屋のサーカス / circo de sastre(シルコ・デ・サストレ)」と名乗り、公演を始めた(photo : ryo mitamura)

——もともとファッションから入っていないので、服のかたちをしたものを発表したときも、ギャラリーで発表していましたし、最初はほぼアートのひとたちが見ていた。アートのひとたちから、ダンスカンパニーでやりませんかとお仕事をいただいたり。だから僕はいわゆるアパレルのビジネスシステムを通ってきていないんです。良くも悪くもビジネスを経験していないというのはあります。

現在、巷で売られている服はいわゆる「リアルクロース」が圧倒的に多い。トレンドを適度に意識した無難に着やすい服がほとんどだ。イッセイミヤケやコムデギャルソンのように、クリエーションを前面に押し出す服づくりはむしろ市場での旗色はよくないように見える。アートとファッションの両方に取り組み、衣服の可能性を拡げようとしているスズキタカユキさんは、ファッションデザイナーとしてはかなり例外的な存在だ。
実際にアーティスト活動とファッションビジネスを両立させるのは至難の業だろう。彼にとって、ビジネスをやり続けることの理由と魅力は何だろうか。

——アートは自由というイメージもあるけど、それでご飯を食べているひとは少ない。一方で、洋服にはかなり幅があるので、逆にすごく自由だな、と。服は「買うもの」と思われていますから、ビジネスとして裾野が広い。自由なうえに、自立しているなと思ったんです。
服を売っていくのはなかなか厳しいですが、自分でやり方を考えていきながらできるのがいいですね。今は二極化してきているんじゃないでしょうか。デザイナーのなかでも、イメージをつくるひとたちと服をつくるひとたちとに分かれている。僕はひとつずついいものをつくっていく方がいいなと感じています。自分にとって、リアリティがあるものをつくりたいですね。ファッションで一攫千金は狙っていませんから、真っ当なことをやらないとやっていけないんです。そういう意味では、世の中はいい方向にいっているなと思います。いいものをつくれば売れるし、そうでないものは売れない。

スズキさんは、バブルが終焉して洋服が売れなくなった時代を生きてきたデザイナーである。だからこそ、服をきちんとつくることの重要さを切実に感じているのだ。
彼のつくる服はトレンドではなく、着るひとのからだになじむ身体感覚、自然に近いモノトーンの色や染めを追求する。

——僕がいちばんこだわっているポイントは素材感とシルエットのバランスです。着心地に近いかもしれないが、着るひとのシルエットを大切にしてます。服のあいだの空気。服と肉体のあいだの空間はなんだろうかというのが、僕のテーマです。そういうバランスを大事にしている。素材だけに凝りすぎた服はよくないし、素材を無視するのもよくない。

そのためか、スズキさんの顧客は彼の服を大事に着続けるのだという。もちろん衝動買いするひともいるが、そうであっても長く着てくれる。顧客のなかには、シーズンごとに個人でオーダーしてくれるひとも多い。インディペンデントでありながら12年間も活動を続けてきているのも、こうした人々が応援してくれたからだ。
かつてスズキさんも自分のクリエーションを強く主張するデザイナーだったが、最近はもう少し顧客とコミュニケーションをはかっていきたいと考えるようになっている。そこから何かが生まれるのではないか、と思っているのだ。
ローカル・ファッションへの動きは東京の相対的な凋落もあるが、服づくりの考え方が変化してきたことも要因だろう。トレンドに流されず、インディペンデントな活動を続け、顧客との関係を維持しているスズキだからこそ、根室に移住するという発想も出てくるのだろうし、実際にやっていけそうな予感もある。若い世代が世界に出ようとしない、内向きだとの批判を耳にするが、こうした動きは地に足のついた好ましい変化のように思える。

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(上下とも)suzuki takayuki 2014-15 autumn-winter collection

(上下とも)suzuki takayuki 2014-15 autumn-winter collection