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アネモメトリ -風の手帖-

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#40
2016.04

幸せに生活するためのデザイン

前編 城谷耕生の仕事 長崎・雲仙市小浜
9)新たなしくみを模索し、工夫をつづける

城谷さんはこれまで、「ひとの役に立つ」ことを志し、社会のなかにおけるひととものづくりのありかたを考えながら、デザインに携わってきた。それも都市ではなく、地域に根ざした伝統や伝統の手わざを広い見地から見なおし、とらえなおすなかで、“本当に必要な”ものや場を生み出してきたのである。さらには、職人をはじめ、若い世代を教え、育てることにもエネルギーを注いできた。今の言葉でいうと、城谷さんが行っていることは「ソーシャルデザイン」に他ならない。ただし、ソーシャルデザインが日本で「流行する」よりずっと以前から、一貫して手がけてきている。

ここ最近、できるだけ「小浜を出たくない」と城谷さんは言う。もちろん、生活していくために設計などの仕事もしているから、月に何度かはまちを出て、県外や海外にも出向く。それでも東京の仕事はひとにまかせてもうほとんど手がけなくなり、イタリアに行く回数も以前よりぐっと減らした。ゆくゆくは、地元を中心に仕事と生活がまわってゆくことを目指している。城谷さんいうところの「地方発・地方着」のライフスタイルである。

城谷さんには、思い描く幸せな生活と仕事のしかたがある。それを地域やまちの現実としていくために、あらたなしくみを模索し、工夫を続けているのだ。

「伝統とはただ保存継承することではなく、革新を付け足しながら作り続けていくことではないでしょうか。それは今でも常に新しくなっていくべきものなのです」。城谷さんの発言には、これまで試行錯誤を積み重ねてきたリアリティがある。

まちをリデザインするなかで、刈水と小浜は変わりつつある。県外から移り住んでくるひとも出てきて、他のまちとのつながりが生まれ、発信するものも増えてきた。
後編では、小浜というまちにフォーカスして、城谷さんの仕事をスタッフの目から、そして小浜への移住者や、長崎の他の地区で城谷さんに共鳴する人たちの視点から、小浜と城谷さんの取り組みを考えていきたい。

刈水庵の隣に事務所を移す前の、海に面したアトリエ。現在は奥さんで陶芸家の玉銀喜さんがアトリエとし、隣の建物をゲストハウスにしている。ここから眺める夕陽は絶景

刈水庵の隣に事務所を移す前は、海に面したアトリエで仕事をしていた。現在は城谷さんの妻で陶芸家の玉銀喜さんがアトリエとし、隣接する写真の建物をゲストハウスにしている。ここから眺める夕陽は絶景

構成・文 : 村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。

写真 : 林口哲也
フォトグラファー。プロダクト、クラフト、美術展示、舞台公演、料理、家族写真等の撮影を手がける。写真新世紀第28回公募優秀賞(松村康平との共作)。神戸芸術工科大学非常勤講師。