アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#22
2014.10

スローとローカル これからのファッション

前編 つなぎ手、伝え手の立場から
7)メイドインジャパンの服づくりを未来につなげるために

今回、ローカル・ファッションに注目するショップ「ミツカルストア」の平松有吾さん、地場産業と若いつくり手をつなぐ「セコリ荘」の宮浦晋哉さん、京都の素材メーカーからファッションブランドへと転換する「ひなや」の伊豆蔵直人さんの3人から話を聞いた。いずれも、これまでのものづくり、流通・販売のやり方にとどまることなく、地方の服づくりに目を向けて、新しい出会いや価値観を生みだす場所づくりをしているのが印象的であった。
平松さんは大手ファッションビルの企画担当として、ローカル・ブランドの現状を冷静に分析している。彼の見立てでは、地方のブランドでもクオリティと生産体制が整えられれば、十分に発展していく可能性がある。これから大手SPAの勢力がますます増大するかもしれないが、それでもインターネットを介した口コミや販売により、ローカルな服づくりもサバイバルできうるという。
宮浦さんは情熱をもって産地を回りながら、その窮状を目の辺りにして、これからの数年が最後のチャンスだと考えている。地方のものづくりは高齢者問題、後継者不足など、きわめて厳しい状況が続いている。若い世代が職人修業するのは容易なことではないが、それでも地方に入っていこうとする若者は絶えない。そのような動きをいかに継続的にサポートしていくかが、日本のものづくりの今後を大きく左右するものとなるだろう。
伊豆蔵さんからは和装メーカーが直面している現場の危機感が伝わってきた。現状維持ではなく、新たなチャレンジへと乗り出し、なんとか状況を打破しようと奮闘している。しかし、彼が立ち上げたプロジェクトは、地方からのファッション発信の試みとして、何かがはじまる気配を感じさせてくれる。
地方を元気にする活動をしているとはいえ、彼ら3人が見ている風景はバラ色に輝いているわけではない。いまここで手を打たないと、数年後にはメイド・イン・ジャパンの服づくりができなくなるような切迫した状況が来ている、そんな現状認識を突きつけられた感じだ。
ローカル・ファッションにかかわるひとたちは着実に増えているようだ。従来の衣服の枠組み、ビジネスの成功モデルにとらわれず、自分たちの服づくりを追求する。そして、それに共感するファンがツイッター、SNSなどをフォローして意見交換や情報発信をおこない、小さなコミュニティを成立させている。それはこれからのファッション流通のモデルとなるものかもしれない。
前編ではローカルのつくり手たちを支える場所づくりをしているひとたちを見てきたが、後編では、実際にローカルで服づくりをおこなうデザイナーたちに話を聞き、これからの時代の服づくりはどうなるのか、当事者たちの声を聞いていくことにしたい。

「nusumigui」のワークショップ参加者による「切り株のカバン」のためのイメージスケッチ

「nusumigui」のワークショップ参加者による「切り株のカバン」のためのイメージスケッチ

ミツカルストア バイ ワンスアマンス
http://www.parco.jp/onceamonth/meetscalstore/

セコリ荘
http://secorisou.blogspot.jp

ひなや
http://www.hinaya-kyoto.co.jp

取材・文:成実弘至(なるみ・ひろし)
1964年生まれ。京都女子大学教授。ファッション文化、若者文化、服飾史などを研究する。著書は『20世紀ファッションの文化史―時代をつくった10人』(河出書房新社、2007年)、編著として『コスプレする社会―サブカルチャーの身体文化』(せりか書房、2009年)、『モードと身体-ファッション文化の歴史と現在』(角川書店、2003年)、共著に『JAPAN FASHION NOW』(Yale University Press、2010年)など。展覧会「感じる服 考える服」(東京オペラシティアートギャラリー、2011年)のキュレーションを手がけた。

写真:森川涼一(もりかわ・りょういち)
1982年生まれ。写真家。2009年よりフリーランスとして活動する。人物撮影を中心に京都を拠点とし幅広い制作活動を行う。

取材協力:浅見旬(あさみ・じゅん)
京都造形芸術大学4回生。「テキスタイルマルシェ」の取材を担当。