6)新しい枠組みを模索し、先行投資する
ひなや・伊豆蔵直人2
現在、伊豆蔵さんが手がけているプロジェクトは 2 つある。「mitasu+(ミタス)」と「Re:(リコロン)」だ。
「ミタス」では和装と洋装とのミックスしたコーディネートを提案する。着物を一式揃えなくても、羽織など和服のアイテムにTシャツにジーパンで羽織るだけで、お洒落として楽しめる。各々がコーディネートのなかでさまざまなアイテムを展開していくことができる。和装の枠組みにとらわれず、キモノを現代のファッションとしてスタイリングするプロジェクトが「ミタス」である。
着物は和装業界、洋服はアパレル業界、水と油みたいにはっきりと分かれていた両者をつなげるために、ファッションデザイナーに着物でコラボレーションを持ちかけた。「アンリアレイジ」「ミントデザインズ」「ミナ ペルホネン」「シアタープロダクツ」の4ブランドに浴衣のデザインを、ファッションディレクター山口壮大にスタイリングを依頼してカタログやファッションショーをおこない、2013年の夏に伊勢丹新宿店で発売した。
ファッション界の実力派クリエイターがデザインした洋服感覚の浴衣は好評で、売り上げも上々だったという。山口さんのスタイリングする和装と洋装のミックスは強烈な印象で、反応は賛否両論に分かれた。しかし、和服と洋服をドッキングさせるという伊豆蔵さんのもくろみは、見事に成功したのであった。
もうひとつの「リコロン」はまったく異なった目的をもつものである。「リコロン」とは「持続可能な循環型社会を目指し、衣料品のリユース、リメイクを推進するプロジェクト」である。着なくなった服をひなや本社屋(京都市上京区)の1階にもうけたアトリエ「リコロン」に持ちこんでもらってストックし、メンバーになってもらったひとは無料で持ち帰ることができる。そのまま着ていてもいいし、再び「リコロン」に戻してもいい。リメイクのワークショップも開催するので、オリジナルの服をリメイクすることもできる。古着のリユース、リメイクの新しい提案でもある。
「ミタス」も「リコロン」も新しいファッションを模索する試みであり、人々が出会う場所をつくっているところが興味深い。「リコロン」はビジネスというより、アートプロジェクトに近いものかもしれないが、ここから何かの動きが生まれるような未知の可能性が感じられる。
——先行投資です、まだ。でも算段のない投資ではない。ひとと古着が集う場ができて、そこにリメイクをしたいクリエイターや職人が、つながって輪がひろがっていけば、新しい服づくりが見えてくるのでは、と。古着が循環するなかで、リメイクを軸にクリエーションのプラットフォームを形成できたら面白いでしょうね。
伝統を守るのでも現状を維持するのでもなく、前に向かっていこうとする伊豆蔵さんの姿勢には、現代という時代と格闘して、未来を切りひらいていきたいという切実な願いを垣間見ることができる。
——ファッションがますますリーズナブルに普及していくなかで、従来の枠組みでの衣服づくりは厳しい。国内では、どの産地もこのままではいずれ行きづまるでしょうし。和でも洋でも置かれている状況は変わらないでしょう。産地や工場によってスケールは違いますが、今ならまだ、どこも過去のストックやノウハウが残っているはず。それをどう活用して、転換するのか。ここ数年が勝負だと思います。
現場でものづくりも大切ですが、新しい枠組みの創出が肝心です。今後、需要が減っていくものをつくり続けても先は見えていますから。和装ではどんなに技術が優れていても、コストが高くなりすぎる仕事は需要がどんどん減ってきている。かろうじて、その価値を支えてくれているのは団塊世代ですが、次の世代になると大きく変わるでしょうね。 今の10代が大人になるころには、和装のニーズは様変わりでしょう。
和装で明るい話としては 、30 ~ 40 代で活躍するひとが増えていることです。彼等は、自らどんどん発信をして、お客さんや職人との交流にも積極的。自分で販売もできて、現代にあったスタイルの提案をしっかりと意識しています。商品をつくって販売するだけではなくて、着る機会や場の提案もされている。そういうひとたちが出てきていますから。
結局、やる意思を持っているか持っていないか。やれる知恵とノウハウが持てるかどうか。後は、柔軟性でしょうか。「ミタス」も「リコロン」も、普通はやらないと思います。枠組みそのものから創出するという意思とか意欲があってこそ。こだわりをものづくりには置かないという表現をしましたが、僕らの世代なりのチャレンジをして、次に繋げていきたい、という点には執着し、大いにこだわっていきます。目先の効率にとらわれず、先を見て、新たな枠組みの創出に挑み続けたいと思いますね。
地方のものづくりが困難なのは、もちろん時代のせいもあるし、ファストファッションの影響もあるだろう。しかし、そのなかでも伊豆蔵のように、自分で発信していく、新しい動きをつくっていきたいという意欲のあるつくり手が登場していることは勇気づけられる発見であった。同じような志をもって活動するメーカー、面白いファッションを見つけたい、つくりたいという人々が集まってくる光景を見ていると、ローカル・ファッションもあながち絵空事ではない、という気になってくる。