2)クラウドファンディングは私たちへの問いかけだった
1回目のクラウドファンディングは、3ヵ月で616人から1,928万2,000円の支援を得て終了した。クラウドファンディングの業界では快挙と言われる結果であったが、これは建築審査会に提出する書類作成のための費用でしかない。プロジェクトが成立した日も、あごうたちは祝杯もあげず、支援者からの期待と劇場建設という巨大な事業の重みを支えるのに必死になっていた。2018年の9月には目標金額を800万円に設定した2回目のクラウドファンディングを開始。12月20日に400人から968万4,932円の支援を受けて終了した。
「京都に100年続く劇場をつくる」という呼びかけが、これほど多くのひとに支援という行動を起こさせたのはなぜだろうか。
蔭山 1つのプロジェクトで2回も大きな金額を集めるのは難しいと思っていました。1回目に支援してくれたひとはまたお金を出すのかと思うだろうし、プロジェクト自体の実現性を疑われるかもしれない。一方では、2回目は1回目の実績もあるし、Readyforからもとても優秀なキュレーターがついて、達成するための戦略をたてることができました。今回はまさに手数料にふさわしい対応でした。
あごう 日本で個人の有志が集まって、2億円に近い経費をかけて劇場を建てるという前例は、ほぼありません。ただ、アーツシード京都のメンバーには、「京都から小劇場がなくなってしまってはいけない。舞台芸術の未来のためには、絶対に必要だ」という思いがハッキリありました。そして、「それは正しい思いだ」という確信があった。その問いかけが届かなければ、「あきらめて、それぞれでがんばりましょう」というだけです。
もう一方で、それを共通言語としてどのように発信していくのか。それぞれのひとのリアリティとして響く言葉はなにか、と考え続けてきました。舞台関係者だけでなく、芸術に関わる人、行政の職員、地域の人々、もっと広げれば市民に対して、あるいは経済界のひとに対して何をどう語るのか。結局、私たちは「劇場をつくる」を通して、彼らの言語、価値観とどう向き合っていくのかをやり続けてきたのです。
蔭山 「All or Nothing」(目標金額を達成した場合のみ資金が受け取れる)での資金調達だったので、ある程度の金額が集まってきた段階でメンバーが自腹を切ってでも達成させようという覚悟はしていました。小劇場という場が、個人にとっても舞台芸術にとっても、歴史としても重要だという強い思いがそれぞれにあった。
あごう 資金集めと書類作成に加えて、もう1つ、地域住民に受け入れてもらえるかどうかが私たちにとって重要なことでした。
E9のクラウドファンディングは、アトリエ劇研や小劇場で育った表現者たち、鑑賞してきた人たち、芸術に関わるあらゆる人たちに、「京都に小劇場がなくなっていいのですか、あなたは?」「表現が生まれる場がなくなっていいのか?」という問いかけであった。その応答が1,000人以上からの資金支援という形で返されたのだ。
一方で、そこに住む人々にとって小劇場は馴染みの薄いものである。これまで住宅街にあった小劇場が騒音や交通妨害など地域住民からの苦情によって移転や閉館になった事例も多い。劇場運営に関わってきたあごうや蔭山にとって、新しい劇場が地域に受け入れられなければすべてが水泡に帰する可能性があった。