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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#77
2019.10

場をつくる×クラウドファンディング

京都・THEATRE E9 KYOTO 前編
1)「京都に100年続く劇場をつくる」THEATRE E9 KYOTOの挑戦

「京都に100年続く劇場をつくる」。THEATRE E9 KYOTO(以下、E9)が掲げている理念である。
E9は、あごうさとしを代表理事とする一般社団法人「アーツシード京都」が建設から運営まで担う劇場であり、理事には元「ロームシアター京都」の支配人兼エグゼクティブディレクターの蔭山陽太、狂言師の茂山あきら、舞台監督・照明家の關秀哉、美術家のやなぎみわ、舞台監督の浜村修司ら5名が理事として名を連ねている。
日本には数多くの劇場(*)があるが、そのほとんどは行政あるいは企業が設置したものであり、個人の有志が本格的な劇場を立ち上げた事例はほとんどない。また、日本には私有財産になる施設の建設に国や行政からの補助はできない仕組みになっている。まとまった資産を持たない個人の集まりが劇場を建てるのは無謀な企てであった。

だが、アーツシード京都の面々には切実な想いがあった。契機となったのは、左京区にあった「アトリエ劇研」が2017年8月末に閉館するという知らせだった。アトリエ劇研は、前身の「アートスペース無門館」時代から33年間にわたり、京都の若い演劇人や舞台人が新しい試みを応援し、創造を支える場であった。あごうは2014年から同劇場のディレクターを務めており、若手支援の制度や劇場支援会員制度などを取り入れ、収支を黒字に改善してきた。
しかし、オーナーが高齢のため建物の維持が難しくなり、2015年11月に閉館が発表された。同時期の京都では、小劇場と呼ばれる客席50席前後のスペースが次々と閉館し、若い表現者たちの発表の場がなくなろうとしていた。

*2015年度の文部科学省の社会教育調査によると、地方公共団体、独立行政法人、民間が設置する文化会館(劇場、市民会館、文化センター等)で、音楽、演劇、舞踏等の主として舞台芸術のための固定席数300席以上のホールを有するものは1, 851館。「小劇場」をふくむ300席未満の施設についての全国的な統計は見当たらない。

あごうさとしさん

あごうさとしさん

あごう アトリエ劇研の閉館が決まった時、仲間うちで1, 500万円ぐらいあれば新しい劇場を立ち上げられると話していたのを覚えています。その数字ですら、僕らにとっては途方もない金額です。
相談をしていた美術家のやなぎみわさんや蔭山さんらとアトリエ劇研の次の活動場所を探していた時、茂山あきらさんと關秀哉さんも若手の表現の場となる小劇場をつくろうとしていることを知り、共に2017年1月に一般社団法人アーツシード京都を結成しました。条件を満たす場所探しに奔走したのですが、京都のまちなかでは絶対に無理で、最終的に町家のリノベーションで知られる不動産会社「八清」さんが持っていた東九条の倉庫にたどり着きました。下見をしたときには、中を自分たちで黒く塗れば、すぐにでも劇場として使えると思ったほどでしたが、さすがにそうも行かず、当初はこの物件を改装して劇場にするには、4, 000万円ぐらいかと算段していましたね。

アーツシード京都は、2017年6月27日に劇場建設のためのプロジェクト開始を宣言する記者会見を行った。その際、事業総額を8, 500万円と見込んでいると伝え、2回のクラウドファンディングと企業や団体からの寄付の2方向から資金を集める計画を発表。1回目のクラウドファンディングで、まず目標金額1, 400万円の支援を呼びかけた。

蔭山陽太さん

蔭山陽太さん

蔭山 大きなハードルになったのが、「劇場建設に関する認可取得に向け必要な調査と書類作成費」です。このエリアは第一種住居専用地域に指定されているため、不特定多数のひとが集まる劇場の建設には京都市の建築審査会にかけて特例措置を受ける必要がある。そのための調査と書類作成に約1,200万円かかることがわかってきた。建物の現状を詳細に調査して構造計算し、建築基準法の耐震や防音の基準を満たす改修工事の設計図面を出すなど、どうしても専門家に依頼しなくてはいけなかったわけです。

通常、規模の大きいクラウドファンディングでは、キュレーターと呼ばれるクラウドファンディングにおける“コンサルティングのプロ”が専任で付き、1ヵ月以上前から達成に向けて戦略を練って行く。だが、E9は、アトリエ劇研が閉館する時期と重ねて資金調達を行っていったため、準備期間は1週間しかなかった。紹介されたReadyfor のキュレーターと「劇場をつくる」という思いを共有することも難しく、試行錯誤しながらの出発であった。

蔭山 僕らもクラウドファンディングReadyforのキュレーターもお互いに手探り状態。僕らは手数料が集まった金額の17%ってどういうことなんだと憤ったり。キュレーター側も演劇や芸術の専門ではなく、僕らの想いを十分に汲んだサポートは難しかった。その行き違いをやりながら埋めていったんですね。
スタート時点である程度の金額は集まったんですが、そのあとがなかなか伸びない。その期間がけっこう長くてきつかったですね。僕たちが普段から付き合いのある演劇以外のアートに携わる方々や、身近にいる人々はほとんど支援してくれているし、これ以上、誰が支援してくれるのかが本当に見えなかった。ちょっと苦しかったのは、実際に小劇場を使っている若い演劇人たち。彼らは常日頃からお金がないのはよく知っているので強くはいえないですね。途中で支援したいけれど1万円は無理だという学生のために3, 000円の枠も設定しました。結果として、アトリエ劇研やその前身のアートスペース無門館に「よく観に行っていた」「舞台に立ったことがある」といったひとが多く支援してくれた。33年間の歴史の厚みと広がりを実感させられました。