アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#77
2019.10

場をつくる×クラウドファンディング

京都・THEATRE E9 KYOTO 前編
4)多文化共生に厚みをくわえる

東九条は、その歴史的背景から地域内で助け合うコミュニティ活動が盛んであり、自治連合会をはじめとしたさまざまな団体や個人が、住民の生活支援や児童館・保育園事業、外国籍のひとや高齢者、障がいある人たちを支えてきた。祭りも多く、季節ごとの祭りの他、朝鮮半島の打楽器を奏でながら踊る「東九条マダン」という祭りも開催されている。

あごう 地域を支えてきた人たちが一所懸命に取り組んでいるイベントや祭りなどに僕らも積極的に参加することで、住民の方から他の住民に僕らの活動を説明してもらえるんですね。

蔭山 そのとっかかりになったのが、2017年8月の「東九条夏祭り」。会場となっている京都市地域・多文化交流センターという施設の軒先で茂山あきらさん、茂山童司さんが狂言をしてくださった。大人も子どもも目の前で行われている舞台芸術に夢中になって、笑ったり、拍手をしたりして、舞台芸術の持つ何か1つを感じたのだと。その瞬間に、僕らがやろうとしていることを「こういうことだったのか」と腑に落ちたんだと思う。夏祭り以降に、僕らと話すときの表情が変わりましたね。もちろん、それまでの挨拶回りなどをやってきたからでしょうが、地元の人たち自身の言葉で僕らの活動を語ってくれるようになった。

実際、筆者は昨年(2018年)のE9の忘年会では、小さな韓国料理屋のおかみさんが「あごうさん、集めておいたよ」とお客さんから集めたカンパと署名を渡す場面を目撃した。お正月の餅つき大会でも、京都市地域・多文化交流ネットワークセンターの施設長さんからの呼びかけに居合わせた人たちが「楽しみにしているわ」「どんな芝居やるの」と、次々とカンパしてくれたという。下町の、ごく普通の生活をしているおっちゃん、おばちゃんが、東九条に劇場が生まれることを自分ごととして捉え、自分にできることで支えようとしているのだ。

_MG_5981

_W1A3057

E9関係の打ち上げなどで、メンバーが事あるごとに集う「ハルバン」。時間を重ねて、関係性を築いてきた

蔭山 当時は、まだ劇場ができていなかったので、僕らの思いの熱量を見てくれていたんだと思います。「あごうさんは、地域の集まりにもでてきていつも汗かいて一所懸命にやってはる」ってね。そうした日頃の態度や行いが伝わる距離に僕たちはいるようにしてきた。
アーティストとも、京都市の事業である「文化芸術で人が輝く社会づくりモデル」「京都駅東南部エリア アート・トライアル2017-2018」をHAPS(東山アーティスツ・プレイスメント・サービス)から3つのプログラムを委託され、東九条でアーティストが地域住民と共に作品をつくりあげるプロジェクトも行いました。アーティストによるリサーチ期間を長くとっていて僕らも住民の方々とじっくり関わることができた。

あごう アーツシード京都の主催事業として、開館前から地域の子どもが3時間で映画をつくるワークショップ「ご近所映画祭」や、俳優の弓井茉那さんを講師にむかえた演劇ワークショップもやってきました。こうした活動を積み上げていったからこそ、地域の人たちも「なにか私たちにできることはない?」と考えてくれるようになった。会議室で理屈を喋っている段階から一歩進めたという手応えを感じましたが、まだまだ足りていない。E9を知らないひとも当然いるので、丁寧に説明し続けるしかないですね。

蔭山 東九条は、長い時間をかけていろんな困難や背景を持つ人たちを受け入れて一緒に住む「多文化共生の文化」を培ってきた。その文化にE9が助けられたのかもしれない。

あごう 地域の人たちから「行く当てのなかった自分をこのまちが受け入れてくれた」というお話をよく伺います。それは、まさに僕たちのことじゃないかって(笑)。東九条に出会ったのは偶然ですが、今から思えばここしかない必然だったと思います。

E9が開館した2019年の東九条夏祭りに行ってみた。地域・多文化交流ネットワークセンターの軒先に、住民によるカレーやチヂミ、串焼きなどの出店が並び、多様な言葉が飛び交っていた。子どもや高齢者、車椅子やストレッチャーで祭りを楽しむひとがいるなかに、蔭山やE9スタッフ、住民と一緒に作品づくりをしたアーティストらが混じり合い、ビールを片手に挨拶を交わしあっていた。舞台では、E9は子どもたちと共に「ご近所映画祭」の宣伝を行い、大きな拍手を受けていた。日常生活と文化・芸術、地域と劇場が互いに「価値」を認め合い、対等な立場で共に生かし合っているようにみえた。

次号では、「100年続く劇場をつくる」思いに共鳴した京都信用金庫への取材もふまえ、THEATRE E9 KYOTO設立をめぐって見えてきた経済システムの変容、そしてアートからの社会変革の提案をうかがう。

 

THEATRE E9 KYOTO
https://askyoto.or.jp/e9

取材・文:山下里加(やました・りか)
京都造形芸術大学アートプロデュース学科教授。アートジャーナリスト。大阪アーツカウンシル専門委員(2013年6月〜2018年3月)、高槻市・豊中市・奈良市などの文化振興会議委員など地方自治体における文化政策に関わる。『地域創造』(一般財団法人地域創造)にてアートとまちづくりの関係を取材・執筆。『ブリコラージュ・アート・ナウ 日常の冒険者たち』(国立民族学博物館、2005年)、『山下さんちのアーカイブを持って帰る』展(ARTZONE、2014年)などの展覧会企画に参加。

写真:成田 舞(なりた・まい)
1984年生まれ、京都市在住。写真家、1児の母。暮らしの中で起こるできごとをもとに、現代の民話が編まれたらどうなるのかをテーマに写真と文章を組み合わせた展示や朗読、スライドショーなどを発表。2009年 littlemoreBCCKS写真集公募展にて大賞・審査員賞受賞(川内倫子氏選)2011年写真集「ヨウルのラップ」(リトルモア)を出版。

編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。