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アネモメトリ -風の手帖-

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#70
2019.03

スローファッション新世代

後編 ファッション編
1)山村で生活しながら服をつくる iai 居相大輝さん(1)

居相大輝の自宅兼アトリエは京都府福知山市大江町。京都駅から電車で2時間以上、最寄り駅からさらに車に乗ったところにある、山々に囲まれた山村だ。古い農家を借り受けて改装し、住居と展示スペースとして使っている。隣には野菜を育てる畑、2階をアトリエにした作業小屋(ヤギもいる)、布を染める作業場など。彼はこの場所で早朝から午前は服づくり、午後は畑仕事や家族と過ごす、晴耕雨読な生活を送っている。
居相の服づくりは独学である。布は自然素材のものを購入、家の周囲に生えている植物で草木染をする。パターンもひかず、直接体に布をまとわせて立体裁断でつくることが多い。ミシンは使うが、すべて彼の手づくりだ。

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居相大輝さん。1991年京都生まれ。独学で服づくりをはじめ、2015年より京都府福知山市大江町に移住し、ブランド「iai」を立ち上げる

———僕や妻の体に合わせて、感覚的に自由にやっている感じです。服づくりと同じく、草木染に関しても独学で、「このひとの染めの考え方いいなあ」って思ったらそのひとの本を読んで取り入れてみる。服づくりも染めも直感的に、そのときそのときにいいなって思うことをやっています。

彼のブランド「iai」の服は着物や民族衣裳を思わせる、ざっくりした布の風合い、自然ならではの色合い、直線断ちのシンプルさが特徴。デザイン的にもつくり手の意図やコンセプトから作成されたというより、自然から生成してきたものに見える。

———僕はデザイン画を描かないんです。本を読み漁ることもありません。一緒に暮らす妻であったり子どもであったり村のひとたち、木とか川とか、この生活にインスピレーションを得てつくっています。5年ぐらいつくってきて、服の好きなかたちはあります。それが東洋なのか西洋なのか、いろいろ混ざっていると思うんですけど、頭のなかに描いて、そこから派生していろいろ組み合わせていく感じですね。あとはふいにやってくるおばあちゃんたちの服の合わせ方であったり。そのシルエットいいなあとか。生活のなかにあるものですね。

iaiのたたずまいは、かつて東北の寒村で着られていた「ボロ」を想起させる。布が貴重だったころ、服は破れるまで着て、穴が空いたら継ぎを当てて次の世代に渡すものだった。長年東北で受け継がれた服のなかには圧倒的な存在感があり、ボロという愛称で再評価されている。アトリエで見た作品には、もちろんボロほど時間の澱は蓄積されてはいないが、同じ空気をはらんでいるように思われた。

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工場でデッドストックの靴下を譲ってもらい袖のリブに使用したワンピース / 背中の部分にはiaiのトレードマークである刺繍が / 手づくりの竹のラックに服が吊るされている / 生地の耳の部分も使用している

工場でデッドストックの靴下を譲ってもらい袖のリブに使用したワンピース / 背中の部分にはiaiのトレードマークである刺繍が / 手づくりの竹のラックに服が吊るされている / 生地の耳の部分も使用している