アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#69
2019.02

スローファッション新世代

前編 テキスタイル編
2)仲間を育てる「産地の学校」 糸編 宮浦晋哉さん

産地の旅に区切りをつけた宮浦はセコリ荘を再開し、次のプロジェクトに乗り出した。2017年5月にスタートした「産地の学校」である。これは原料、糸、織り、染め、産地など、テキスタイルの基礎から応用まで、12週間かけて学ぶカルチャースクールだ。講師は現場で働くプロの職人ら、宮浦のビジョンに共感した仲間たちで、実践的なカリキュラムを組んでいる。各回の受講生は20人くらい、現在4期生が学ぶ。

———産地のためにも発注者のためにも学校を開かなきゃいけないっていう思いが強くなってきたんです。学校っていう新しい軸をつくって産地に必要なノウハウを広めて、日本国内で活躍するプレイヤーを増やしていこうと。なおかつ、産地に関心のある学生向けの就職サポートみたいなものもイメージとしてありました。
ぼくは「産地には若いひとが入る必要がある。若いひとを軸に新しいビジネスをつくり、新しいマーケットをつかんで新陳代謝をしていきましょう」って言ってきた。ところが、若いひとが産地に入っても離職率が高い。辞めるひとの話を聞いてみると、ほぼ100%「思っていたのと違う」なんですよね。「企画書を書いたり新しい絵柄をつくりたい」って言っているのに下請け工場を選んでいたり、「織機を動かしたい」って言っているのに織機を持っていない会社に入っていたり。明らかなミスマッチが起きていた。そういったことも産地の学校で解決できるって思います。

授業のようす

授業風景を見せてもらったが、繊維についての専門的な授業を受講生が熱心に聞いていた。20~30代女性がメインだが、なかには高校生も。受講理由として、キャリアアップや転職を考えるアパレル業界のひと、個人事業主、産地に移住したいひとなど、さまざまなひとがいる。

———産地の学校は教育というより、産地や産業にとってプラスになる人材、仲間を増やそうという気持ちでやっています。産業を活性化してくれるプレイヤーを育てたい。
この間忘年会をやったんですけど60人近く来てくれて、みんな産地の活性について議論するんです。この60人が本気で考えたら産業は絶対によくなるじゃん! って思いました。これからも卒業生が増えていけば、産地もきっといいかたちになる。職人もいればデザイナーもいて、いろいろなんですけど、みんな愛を持って自分の人生と産地に向き合っているんです。

産地の学校は浜松遠州校や福岡ひろかわ校と有志によって分校が始められている。産地には地元の事業者や役人のなかに熱意のあるキーパーソンがいて、宮浦は彼らとチームを組んで事業を進めていこうとしている。受講生のなかから、産地をプロデュースできる人材が出てくる日も近いだろう。
宮浦の見ている方向が仲間づくりにあるのが興味深い。若い世代がビジョンをもって自発的にネットワークをつくる、もうひとつの例を次に見てみよう。

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講師の古橋織布有限会社 濱田美希さん / 綿を撚って糸にするワークショップ / 熱心にノートを取る生徒

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