5)啓蒙や発信を行い、文化を守る場所
今回の3回にわたる特集は、全国各地の新しい図書空間を紹介するというレポート記事であると同時に、新興の図書空間を訪れることで著者自身の本業でもある書店の役割と行く末を逆照射するという課題でもあった。
「どういった本が売れず、どのような書店が必要とされなくなっているのか。その腑分け」
を、図書空間の変化から読み取るという目的は、この特集により高次の問題へと繰り上げられた。
パブリックな存在として公共性を基本とする図書館が、民間の知恵を借りながら、商業施設である書店に近づきつつあるという事実が今回の発見でもあった。
万人に開かれていなければならないという使命に縛られ続けてきた図書館が十進法を守り続ける中、サーチエンジンやamazonなど、情報への検索型アプローチがより身近なものとなり、その役割が疑問視されつつある。商業施設である書店も共通の問題を抱えており、インデックス型の書棚や、広大な空間と品揃えを競う従来のあり方は崩壊しつつある。
その失われつつあるインデックス型の情報空間を図書館のような公共施設が担うはずが、公共施設も市民の声やニーズに応えながら、情報検索空間であることを「半ば降りつつある」という事実が今回取り上げた3つの施設に共通する事実であった。
「どういった本が売れない」のではなく、「売れないが必要な本」があり、それらを積極的に扱い、手に取ってもらうための空間、という意味では今回訪れた3つの公共図書空間は書店と近い存在だ。
情報インフラを扱う場所ではなく、需要をつくり、文化を守る場所。そういった姿勢を持った新しい空間はますます民間の書店と使命や苦労を同じくするのではないか。
よく似た別の場所をみることで自身を見直すつもりが、鏡に映る自分自身を見ていたような体験だった。図書館が啓蒙や発信の役割を持つのであれば、書店も公的な役割を帯びつつある。それが今回の取材から見えてきたことのひとつだった。
八戸ブックセンター
https://8book.jp/
取材・文:堀部篤史(ほりべ・あつし)
1977年、京都市出身。河原町丸太町路地裏の書店「誠光社」店主。経営の傍ら、執筆、編集、小規模出版やイベント企画等を手がける。著書に『90年代のこと、僕の修業時代』、『街を変える小さな店』(京阪神エルマガジン社)ほか。
http://www.seikosha-books.com
写真:高橋 宗正(たかはし・むねまさ)
1980年生まれ。写真家。『スカイフィッシュ』(2010)、『津波、写真、それから』(2014)、『石をつむ』(2015)、『Birds on the Heads / Bodies in the Dark』(2016)。2010年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。2002年、「キヤノン写真新世紀」優秀賞を写真ユニットSABAにて受賞。2008年、「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞。
編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。