3)需要のないところに需要をつくる
棚の管理と選書を担当するのは「主任企画運営専門員」という肩書の森佳正さん。かつて都内の選書型書店に勤務した後、八戸市の公募に応じ、移住を決意された。
———僕はここに来るために移住してきた人間なので、八戸の過去や変遷を知らないんですよね。その土地の出身者であれば、市長の若い頃は本屋で買えていた本が、郊外の大型店舗になったとかって、この土地の変遷を知っている。でも僕はあくまで一般論でしか言えないところがあって。八戸市には公立の工業高等専門学校、私立の八戸学院大学、私立の八戸工業大学がありますが国公立大学はないんですね。ということは進学校に行く多くの人はみんな八戸を離れていくっていうことが宿命づけられている場所なんです。だから、例えば京都ではこういう店が民間でもできるかもしれないけど、八戸にはできない理由がある。本の読み手である大学生が少ない。
需要がないところに需要をつくるのが森さんの仕事でもある。取材日も高校生たちを相手に自らお話をされ、その後センター内を見学してもらうという現場に遭遇した。都内で勤務されていた頃に、選書型書店にも本屋でコーヒーを飲むというスタイルにもなれているお客さんを相手にしてきたからこそ、ブックセンターのコンセプトと地元のお客さんとのギャップがよくわかるという。
———大都市の選書型書店にあるようなもののラインナップだけを置くのはきつい。もう少しステップバイステップのステップを増やさないといけないかな、と。であれば、かつて勤めていた店では少し易しすぎるのではないかというような本も入り口には置いておかないといけないわけです。センターの理想とするラインナップを買ってもらうに至るまでには『100分で名著』の力を借りたり、図解の力を借りたりだとか物語を使ったりだとか、そういう工夫は意識してます。
商品自体が教材になり、次の商品を買ってもらうためのステップになる。急ぎ足ではないところが、むしろ公営の施設ならではの強みではないだろうか。売れなければ排除するのではなく、繰り返しきてもらうお客さんが次の本を手にとってもらうようなしかけをつくる。需要を生み出すのはマーケティングや、広告だけではない。時間そのものが店とお客さんの関係を変えてくれることもあるのだ。