5)好循環を起こす「デザイン力」
しょうぶ学園のものづくりは、なぜひとをひきつけるのだろうか。しょうぶ学園の展覧会を主催した他の方々にも聞いてみよう。
京都のギャラリーギャラリーはテキスタイルアートを得意とする現代美術画廊である。オーナーの川嶋啓子さんは、最初に大高亨さんに紹介されて以来、ほぼ5年おきにヌイ・プロジェクトの展覧会を2000年から計3回開催してきた。
ギャラリーギャラリーでもヌイ・プロジェクトは好評で、熱烈なファンがついている。展覧会の初日には東京からやって来る人もいるくらいだ。なかでも、しょうぶ学園の刺繍シャツはお客さんの人気が高く、売れ行きも好調だという。ヌイ・プロジェクトのなかでもアート作品となると買うひとが限られるが、シャツは普段使いとはいかないが、着て楽しむこともできるため間口が広いのだろう。
川嶋さん自身もしょうぶ学園の刺繍入りの白いシャツを所有しており、気に入って着ているとのこと。
———しょうぶ学園のシャツにはパワーがありますよね。購入されたお客さんのなかにも、シャツからエネルギーをもらっています、とおっしゃるひとがいます。落ち込んだりしたら着るそうです。しょうぶの刺繍には迷いがないので、細かいことは気にせず進んでいくエネルギーをもらえる気がするのでしょう。
川嶋さんは仕事柄テキスタイルアーティストの作品を取り扱うが、しょうぶ学園の作品はそれとは大きく異なると考えている。プロの作家たちはあらかじめ計画して制作するが、しょうぶ学園は「つくっている時の気持ち」がダイレクトに布に入っている。さらに、川嶋さんはしょうぶ学園の「センスのよさ」を指摘する。
———知的障がい者施設の展覧会や商品は見ていますが、しょうぶ学園のものは他に比べて、ダントツにセンスがいい。指導の方とのコラボレーションが優れているんでしょうね。仕立てのセンスというか、デザイン力がとても高い。これは他の施設にはなかなか見られない、商品化するひとの力量でしょうね。
ギャルリ・オーブの「細胞の記憶」展の企画メンバーの一人であり、京都造形芸術大学・子ども芸術学科教授のアーティスト、梅田美代子さんもしょうぶ学園のプロデュース力に注目する。
———しょうぶ学園の作品は自立支援目的の作業的な行為から生まれたものとは違い「障がい者アート」の枠に入らないところがいいなと思います。イラストやグラフィックに携わってきたわたしの目から見ても、「この色は何?」「ここでやめるの?」「この感覚は何なの?」とびっくりする表現があるんですよ。
単純に比較するのもどうかと思いますが、半分夢のなかにいるような幼児の表現行為と何処か似ているように思うんです。子どもは絵を描く行為を楽しんでいて、作品をつくるということが目的ではないですよね。しょうぶ学園の方たちも、同じではないかと思います。幼児の場合は傍にいる大人の絶妙なタイミングの声かけだったり手の差し伸べ方だったりで、イメージの広がりを見せてくれる。同時に子どもは楽しい時間になっていく。しょうぶ学園の作品から感じる子どもの絵に似たピュアなエネルギーはスタッフの方の絶妙な関わりで成立しているんじゃないでしょうか。しょうぶ学園の作品からはひととの寄り添い方や関わり方を気づかされました。
障がい者は思い思いにものづくりをしている。スタッフがその環境づくりにかかわり、同じ目線を保ちながら協働する。そして、社会に向けて彼らのエネルギーを巧みにディレクションしていく。その結果、一般の人々にもその魅力が伝わり、作品や製品への興味が高まり、共感者、支持者の輪が広がる。デザイン力こそがそのような好循環を引き起こしている大きな鍵となっているのだ。