6)気づけば17年目の町家暮らし
写真家・石川奈都子さんの場合1
小針さんによれば、西陣の町家ブームには、大きく分けて3つの波があるという。
———第1次ブームで生まれたのが、町家を借りてほぼそのまま住んだ職住一体のアーティスト。第2次ブームで生まれたのが、町家を改装したカフェなどの、個人経営の店やゲストハウス。第3次ブームで生まれたのは、資本が入ったビジネス的なレストランや旅館などです。
まずはその第一次ブームを担ったアーティストたちが、現在どのように暮らし、ものづくりをしているのか、知りたくなった。そこで、紋屋町のとある小さな路地をたずねてみた。かつては織物関係の職人長屋だったという町家が並ぶ、美しい路地。実は今回、西陣の撮影をお願いしている写真家の石川奈都子さんが、ここの町家に住んでいるのだ。
「まだ散らかってますけど、どうぞ」
築約100年の町家。カラカラカラ……と心地よい音をたてる玄関の引き戸を開けながら、石川さんができたばかりの事務所に案内してくれた。小さな土間で靴を脱いで上がると、すべすべした木板が床に張り直してあり、足の裏に気持ちいい。スリッパを勧められて歩を進めると、左手には階段下のスペースを利用した事務作業スペース。右手中央には大きな北欧のアンティークテーブルがあり、macなどが置いてある。壁は漆喰だ。奥はサンルームのようになっており、手づくりの流し台が据え付けられている。自然光がさわやかに差し込み、大きな観葉植物も気持ち良さそうだ。
———ここで自然光の撮影もできたらいいなと思って。2階はアトリエです。今は自分の大判の写真作品を置いていますが、ゆくゆくはギャラリーなどのフリースペースとして使いたいと思っています。
実は、石川さんが佐野さんらの仲人のもとに入居し、ひとり暮らしを始めた町家は、ここの隣の町家だ。この春に結婚し、それを機に、もとの町家を夫婦の住居専用にし、空き家だった隣のこの町家をもう一軒借りて、一級建築士であるご主人の隆夫さんと共同の事務所にすることにしたのだ。改装した事務所は、隆夫さんの、町家入居後第1号の作品ともいうべき労作である。
———ゆがみを正すために床をいったん全部はがして、張り直しました。微妙に傾いているので建具も一本一本、傾斜に合わせて削らないといけなくて、本当に大変だったみたいです。わたしはあまりそういうのが気にならない方なので、へえーそういう風に直すんや、と感心してそばで見ていましたけど(笑)。
結婚を機に、隣り合う2棟を住居と仕事場に分けて使う。そんなことができてしまうのも、職住一体型の町家だからこそだ。
そして石川さんのおなかには、新しい命が宿っている。
———入居した頃は3、4年で出るんじゃないかと漠然と思っていました。でも思った以上に居心地が良くて、あっという間に17年目(笑)。とうとうこの路地で家族を持つことになりました。