7)行政とともに 「街路市係」の存在
昔ながらと今のバランスを取って、市をもり立てていく。市が大きくなればなるほど、歴史が深いほど、舵取りは難しくなるが、日曜市の場合、行政がその役割を主に担っている。
具体的には高知市では、市を担当する「街路市係」というセクションを設けているのだ。行政が関わる市は新潟の朝市、五城目の朝市など他にもあるが、市専門の係を置いているのは高知だけという。
今回、市を案内してくれた森岡さんは3代前の街路市係長で、現在は藤村浩二さんが係長を務めている。
街路市係の日々は多忙だ。最初に述べたように、高知には日曜以外に火曜、水曜、木曜、金曜、土曜に市が立つ。そのうち民営の水曜市、土曜日のオーガニックマーケット以外はすべて高知市の管轄となっている。街路市係は、日曜市の朝いちばんの設置から立ち会ったりもする。
———日曜は街路市係は朝7時半出勤ですが、夏・冬時間の変わり目などは4時半出勤ということもあります。街路規制をしますし、現場を見回らないといけないので。そのほか、定期と臨時の出店者の出欠を取ったり、臨時の方からは出店料を徴収したり。また夕方には撤収に向けて出店者に呼びかけし、市が終わってから最後の見回りを行います(藤村さん)。
街路市係は現場にしても出店者の状況にしても、日曜市をこと細かに把握している。森岡さんが出店者ととても親しく、ほとんどの方々をよく知っておられる理由がよくわかった。
森岡さんに案内していただいているそばを、藤村さんが通り抜けていく。出店の状況を確認しつつ、来場者のようすや商品の状態をチェックしている。そんなことを毎週地道に行っているからこそ、現状とともに、長期的に解決すべき問題点などもよく見えてくるのだと思う。
街路市係の設置は定かではないが、少なくとも昭和ひとけたにはあったのではないかと藤村さんは言う。特に森岡さんが平成16年に係長として着任したころから、日曜市の希少価値をあらためて意識し、積極的に関わるようになったようだ。ただし、基本はあくまで“高知市民のための市”にある。
———高知市としては、まずは地元の方に愛される生活市であることが第一と思っています。そのために、その時々の活性化をしていきつつ、高知らしさの表れた市として、観光客の方にもアピールしていきたい。そこは大事に考えています(藤村さん)。
地元のひとの生活を支えるためには、質の高い品と誠実な出店者が欠かせない。だから、新規出店者の条件もかなりクリアに定めている。高知県内に居住していること、生産農家または漁業者であること、また他の店舗を持っていないこと。さらに、臨時で出店した経験が原則として3年以上(そのうち開催日の半分以上に出店)、などである。また、同一業者が複数の店舗を出すことも認めていない。良い品を流通させるとともに、熱心な地元の農家や漁師の商売のきっかけともなるよう、舵取りをしているのだ。
そして、もうひとつ。地元に根ざした市であるためには、街路市係ががんばるだけでなく、応援してくれる一般の存在も欠かせない。たとえば、市には大学生のボランティアがいる。大学の授業として「市を学ぶ」講座が数年前に開かれたのだが、その受講生たちが市は面白い、とサークル活動のように、自主的にボランティアを始めたのだという。また、地元のWebマガジン『とさあち』のように、高知市の市をことこまかに、思い入れを持って取材しているメディアもある。
———市を応援してくれる外部の方たちとのつながりはとても大切です。そうして初めて、市がよりよく続くしくみをつくれるのではないかと。活性化とはそういうことだと思うのです(藤村さん)。
ボランティアの大学生たちのブースには、先に紹介した日曜市の無料パンフレットとともに、その大元となる有料のムック『土佐の日曜市 春夏編』『土佐の日曜市 秋冬編』がある。市の魅力がたっぷりつまった、とても充実した内容だ。出店者ひとりひとりとコミュニケーションを取り、話を聞いているからこそのきめ細かな描きだしかたで、高知の旬や四季もよくわかる。街路市係の属する高知市産業政策課の発行だが、型通りの行政の刊行物とは全く異なる、愛着と誇りを感じる冊子だ。
行政とまちのひとびとが手をむすび、市を支え、もり立てていく。そのことが豊かな市を、よりいっそう魅力的にしていくのだと思う。