アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#6
2013.06

市と、ひとと、まちと。

前編 高知の日曜市
6)共存と存続と

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(上から)地元の名物料理を注文して席に持ち帰る方式 /

(上から)地元の名物料理を注文して席に持ち帰る方式 / 豪快な炎で鰹を焼く「明神丸」の店頭 / こんな鰹食べたことない! という美味しさ。とりわけ塩タタキは絶品 / 県内有数のどろめ(いわしの稚魚)産地・南国市浜改田から。「中田遊亀商店」3代目の吉本幸司さん / 創業以来の製法を守る。満足な商品ができそうにないときは加工しないため、対面販売が中心。火曜市、木曜市にも出店

ところで日曜市には海産物があまり見当たらない。高知といえば海産物がすぐ思い浮かぶが、干物を売る店が何軒かあるくらいで、活魚を取り扱うのは一軒のみ。

それには理由があって、市のすぐ近くにある「大橋通り商店街」が海産物を扱っているから、というのが大きい。また商店街に隣接して、鰹のタタキなど、高知の海産主体の名物料理が食べられる屋台村「ひろめ市場」もある。つまり、市で買い物をしてから商店街で魚を手に入れ、最後はひろめ市場で名物料理を楽しむ、ということが十分可能な距離で、じっさいお客はそのように流れたりする。市は早朝から日没1時間前くらいまでやっているから、ひろめ市場で腹ごしらえをしてから、市に繰り出すことも可能だ。

朝から晩までひとで賑わう「ひろめ市場」

朝から晩までひとで賑わう「ひろめ市場」

市と、商店街と、屋台村。それぞれのジャンルが重ならないことで、互いに助け合いながら、ともにある。同じように、高知駅の西側で開催される金曜市も、同じようにすぐそばの商店街と持ちつ持たれつの共存関係にあるという。
市に海産物が少ない理由がもうひとつ、衛生面の問題である。森岡さんによれば、活魚や生肉などの扱いについては、年々基準が厳しくなっていて、保健所から新たに営業許可が下りないのだという。

———ただ、現在営業されている方の継続はできます。街路市では世襲を認めていますので、直系の次世代が引き継ぐのであれば、そうした商品を売り続けることも可能なのです。

世襲制というと、ちょっと旧態然とした響きである。しかし、それは決して伝統をかたくなに守ってのことではない。市の長い歴史において、出店者の高齢化、お客の嗜好など、さまざまな変化に直面するうち、ある部分では昔ながらのやりかたを残しつつ、ある部分では時代に合わせて刷新していくことがつねに続けられてきたのではないだろうか。だから世襲制も、生産農家を守るために残されてきたのだと思う。

日曜市のちりめんじゃこの店「中田遊亀商店」は、祖父から娘、孫息子へと三代にわたって市で商いを続けている。今では娘の吉本ゆう子さんと、祖父の跡を継いだ幸司さんが店頭に立つ。幸司さんは祖父のもとで、ちりめんじゃこづくりの修行に励みつつ、家族でつくった商品を売っているのだ。数は決して多くはないが、吉本さんのように家の生業を継ぎ、自分なりに発展させようという次世代もたしかに存在している。

他の商店街などと支え合うこと、そして「昔ながら」と「今の時代」のさじかげんに気を配ること。市が健全に続いていくためには、さまざまなバランスが何より大切なのかもしれない。