アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#58
2018.03

これまでと、これからと 2

2−4) 地域づくり 未来を見すえ、自ら動く
面のつながり 奈良県東吉野村
(奈良県・東吉野村 移住と仕事のいま #47#48#49#50

奈良県の東吉野村は、「奥大和」と呼ばれる奈良の山深くにある。清い水と空気に恵まれた「気のいい」ところだ。
徳島県・神山町や島根県・海士町などが地域移住のはしりとすれば、東吉野村の動きはわりと最近になる。特徴としては、クリエイターを中心とする移住者の層が厚いことと、いい意味で過剰な思い入れがなく、等身大であることだろう。
東吉野村のキーパーソンは、商業デザイナーの坂本大祐さん。坂本さんは移住してほぼ10年で、村の拠点となるシェアオフィス「オフィスキャンプ東吉野」(以下オフィスキャンプ)を立ち上げた。2015年、村の人口は2,000人足らず、うち半数が65歳以上という典型的な過疎にあった。
しかし、オフィスキャンプができてから、状況は急速に変わってゆく。デザイナー、写真家、陶芸家、現代美術家に研究者など、クリエイターを中心にさまざまな職種の30代から40代前半世代が移り住み、新たな仕事も生み出されるようになった。

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オフィスキャンプの共同

(上から)オフィスキャンプは築70年の民家を改造。一枚板の机も地元のもの / 打ち合わせする坂本大祐さんと管野大門さん / 管野さんのオリジナルプロダクト「tumi-isi」

もちろん、坂本さんひとりが手がけたことではない。行政のキーパーソン、奈良県庁で地域活性化を担う福野博昭さんが坂本さんと出会ったことで、東吉野村は動きはじめたといっていい。「クリエイティブビレッジ構想」はふたりのやりとりから生まれた。奥大和という広域を視野に入れ、ハードの整備など環境を整えて、クリエイターの移住を呼びかける。そして、彼らが協働して仕事を生み出すというものだ。たとえば、それまで都市部に外注されていた地方自治体や企業などのプロジェクトを、クリエイターのつながりで引き受ける。内容次第でフレキシブルにチームをつくり、仕事を進めることで経済もまわり、地域の発信力もつく。オフィスキャンプはそのための具体的な場でもある。

移住してきたクリエイターたちは、親しく付き合い、生活でも仕事においても協力し合いながらも、個々のペースを保っている。またそれぞれに、仕事のクオリティやライフスタイルなどで変化も生まれた。主夫をしながら、長いスパンでデザインを進めるプロダクトデザイナーの菅野大門さんや、奈良に移住することで写真家として幅を広げた西岡潔さんなどだ。
東吉野の移住者たちは、ここでの生活が気に入っている。地元の人々との付き合いに学ぶことも多く、つくるものにも影響を受けている。ただし、ここにずっとい続けるかどうかはわからない。愛着がないからではなく、自分の居場所について柔軟に考えているからだ。
その姿勢はたぶん、これから各地に向かう若い世代に共通するのではないだろうか。根を張って暮らすこととともに、ノマド的に動きながら生きる選択肢もある。それぞれの状況に合ったライフスタイルが実現されていくなかで、地域と地域にも結びつきが生まれ、「地方」という概念も変わってゆくのかもしれない。
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(上から)奈良県庁の福野博昭さん / 地元で木工を手がける桝井奎一さんは、移住してきたつくり手のよき相談者 / 移住者の廣瀬祐子さんがプロジェクトでつくった手ぬぐいに意見を求める