アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#146
2025.07

「水」から考える 人と環境

2  繰り返されることの力 プロジェクトの枠を超えて 京都府京都市
2)生きることに直結する、根本的なメッセージ

永井さんは、異なる時間軸や人間の軸をはるかに超えたような、ある種絶対に成立しないものを統合する方法を開発する必要があったということだろうか。

「そうですね。歴史を振り返ってみると、昔の人はそういうことを試みていたのではないかと思いました。人間の軸を超えた自然の営みを語るにあたって、辻褄を合わせるための方法のひとつが神話や芸術的な表現なのではないかと考えました。そういう人間の軸ではどうにも説明がつかないものを表そうと試みるような過去の作品などを参考にしました」

希望的に言えば、みんな忘れているけれど実は参照できるものが過去にある、ということだろうか。

「『これはアートだから鑑賞するもの』とか『これはデザインだから使うもの』とかそういう枠組みの中で捉えるのではなく、もっと生きることに直結するような、根本的なメッセージを伝えるために、先人たちはものづくりや表現にまつわる方法を作ってきたのではないかと思います。
龍の絵もこれだけたくさんのひとが描いてきているので、正解はないのではないかと。想像上の生きものだということもありますが、そうやって時代を超えてさまざまな人の手によって何度も描かれることに意味があると思います。描くことで、それぞれの時代を生きる人々の身体の中に刻み込まれる何かがあるのかもしれません」

既存の枠組みの中で考えることを超えて、繰り返し描く中で、いろいろなものを託していくという手法は、これからの時代にとても大事になってくると思う。

「アートと今、私たちが便宜的に呼んでいるもののなかには、もっと私たちを助けてくれる要素があるはずだと思います。形のないものを言い表すためにオノマトペが現れたり、混沌とした世界を描くために曼荼羅が現れたり。辻褄が合わないことは間違っているということではなくて、その時代を生きる人々に、凝り固まった考え方からの抜け道を与えてくれる方法だったはずです。
以前、南米の博物館に行ったときに、縄文土器によく似た紋様のある土器を見て、興味深く思いました。大昔の時間軸なので、作られた時代は完全に同じではないかもしれませんが、世界の異なる場所で同時多発的に似たものが生み出されていることに興味をひかれます。人間があったらいいなと思うものや、こうあってほしいと思うものが、似ているということを示しているのだ思います。それは生きる上で本質的なことのような気がして、そこをもっと掘り下げたいと思いました」

頭の中の固定された堰を越えて、言葉が水のように流れこんでくる。永井さんの言葉に宿っているのは、これからの世界に向けての、より開かれたアートの可能性だと感じられた。