アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#145
2025.06

「水」から考える 人と環境

1 アートで捉えるプロジェクト「Water Calling」 京都府京都市

京都は、水が豊かな街だ。
私自身、学生時代に3年間京都に住んでいた。社会人になって数年は東京で暮らしていたが、京都という場所が恋しくなり、十数年前に再び移り住み、今にいたる。
たとえば、街のシンボルともなっている鴨川。かねてから氾濫を繰り返す「暴れ川」とされてきた鴨川は、昭和の水害を経て整備が重ねられ、現在の形となった。鴨川デルタや納涼床などでも広く知られている。
鴨川の近くに住んでいたこともあって、京都に越してきた当初は、よく川辺を自転車で走ったり、ジョギングをしたり、読書をしたりしていた。水に呼び寄せられるかのように川原に通っていたし、水に惹かれていた。
けれども京都に戻ってきてから10年以上が経ち、この地での暮らしに慣れていくうちに、だんだんと水のことを意識しなくなってしまった。水が豊かな土地であることを、私自身、今やすっかり忘れて日々を過ごしている。

そんなタイミングで出会ったのが、京都の街と水とのつながりを、アートという方法を使って掘り起こすプロジェクト「Water Calling」だった。キュレーターの永井佳子さんと、デザイナーのイザベル・ダエロンさんによるプロジェクトである。
「Water Calling」の主宰者である永井さんは、長く住んだ東京から京都に越してきて、「私たちは水の上に立っている」という感覚に驚いたという。

「もともと京都の人から、京都の地下には琵琶湖と同じ量の水がたまっているという話を聞いていまして、それを聞いた時に初めて知ったことだったので、水の上を歩いているというような感覚が、何かすごく不思議な感じがしたんです。目に見えない世界のことなので、それを何か思い描くというか、絵にすることができないかと思ったのがきっかけです」

パリを拠点に水をテーマとした活動を行なうデザイナー、イザベル・ダエロンさんと協働して、京都と水とのつながりを可視化したいと、2022年、「Water Calling」は始まった。活動は、これまで京都、東京、パリと場所を移して開催された展覧会や、書籍やマップなどの印刷物の出版によって展開されてきた。

「水のことを知ってほしい」。永井さんやダエロンさんが抱くその想いを導きに、水とのつながりにあらためて意識を向けることで、私たちにはどんな風景が見えてくるだろうか。
本特集ではこれから3回にわたり、「Water Calling」を取り上げる。第1回では、2025年1月から2月にかけて京都・東山の無鄰菴にて行なわれた展覧会を紹介する。

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「Water Calling」展 無鄰菴洋館 (京都)

「Water Calling」展 無鄰菴洋館 (京都)

250203_IMG_4635_NK永井佳子
キュレーター。ロンドン大学ゴールドスミス校キュレーティング修士修了。外資系企業にて文化事業、デザインディレクションを担当。企画の目的に即した芸術家やデザイナー、職人を引き合わせ、協働するコミュニケーションプロジェクトを多数行う。2020年よりMateria Prima主宰。フィールドワークを軸に、自然資源と文化の関係について研究するほか、分野の枠にとらわれずにクリエイティブを通じて環境と社会をつなぐ企画やコンテンツ、しくみを作っている。Hamacho Liberal Arts 、建築事務所o+hと共同企画(2020-)、雑誌 Subsequence 編集、エルメス財団編『Savoir & Faire 土』(岩波書店、2023)寄稿。京都市立芸術大学非常勤講師。
250203_IMG_4696_NKイザベル・ダエロン
1983年フランス生まれ。リサーチデザイナー、ENSCI-Les Ateliers卒。人間と自然資源が共存するシナリオを作ることをデザインの課題に、プロダクト、都市、空間デザインなど、分野を横断し、環境問題と循環、モビリティー、パブリックスペースなどを視野に入れたプロジェクトを行っている。その他、Topique(トピック)と名付けた課題を設定することで、その解決に向けてのアイディアをかたちにしている(例えば、Topique-cielは雨の後の水たまりを鏡に見立てることで都市空間にある資源の見方を変えること、Topique-feuilles は地面に落ちた落ち葉を騒々しい屋外用掃除機で掃くのではなく風で吹いてもらうというプロジェクト)。