アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#137
2024.10

食文化を次代につなぐ 女性たちの、生きる知恵

3 津軽あかつきの会 「あっちゃ」の挑戦 青森県弘前市(津軽地方)
3)「中動態」の感覚で 楽に、楽しく

日に日に土地に馴染み、ときに驚きながら永井さんはこの地域を、あかつきの会を落ち着いて見ている。地域の新参者として、農家として、いち会社の代表として、その眼に写るものは目新しい。

———まず、あかつきの会は料理を学ぶこと・伝えていくのを目的として、食事を提供することが手段になっていますよね。この目的と手段のあり方は面白いうえに、それがちゃんと成り立っているのはすごい。こんな会、なかなかないと思うんです。

耳に聞こえてくる言葉たちも新鮮だ。というのも、地元で生まれ育った会の面々は「濃い」津軽弁を話す。永井さんもときに聞き取れないことがあり、ご飯に集中しているときはなおさら。聞き耳をしっかり立てて、永井さんは津軽弁に残る「中動態」に注目しているという。「中動態」とは現代日本では馴染みの薄い、文法上の動詞の「態」のひとつ。能動態と受動態、「する」「される」の間に位置する現象を捉えるもので、古典ギリシャ語やサンスクリット語などに広く見られる態だ。

———例えば「笑わさる」。あまり可笑しいわけでもないけど、みんなが面白いこと言うから笑っちゃう、といった責任の所在が曖昧な言葉で、みんなしょっちゅう言うんです。ほかにも、美味しいものが目の前に並んでいると「食べらさる」、思わず食べちゃう、と。自分の意思でありながら、何かによって突き動かされているようなニュアンスが面白い。

もしかすると、こうした中動態の感覚があかつの会のあり方の一端を担うようにも思える。主体の意思ではなく、先人からの知恵、季節の食材を前に「料理をつくらさる」。それを会全体で享受しているのではないか。「この会は仕事ではない、楽しくやる必要がある」と、ばっちゃもかっちゃも口を揃えて話すのは、言い換えれば、責任や意思の所在をはっきりさせないことで、メンバーとして楽にいられるようにしているのかもしれない。永井さんはこうして、使われる言葉の端々から歴史を感じ、話す内容からは大笑いすることも多い。

———津軽の人はおとなしいと思われがちなんですが(笑)、顔を合わせていると、いつもみんな元気で笑いに貪欲と思えるほどとにかく冗談が大好き。元々楽しい人たちですし、楽しく振る舞っているところもあるかもしれません。これも会の方針のひとつで、良子さんはよく「解放する場所がないとだめ」って話すんです。もしかしたら家庭や仕事によっては、しんどい状況にある人もいるかもしれないけど、「あかつきの会がそれを解放してあげるんだ」と。だからそうですね、良子さんみたいなすごいリーダーに出会ったことがないので、それもここに移り住んで来て驚いたことのひとつです。

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取材時に活動に参加していた会員たち。中心にいるのが、会長の工藤良子さん。いつ、どんなメンバーで集まっても笑いの絶えない場だ