アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#127
2023.12

育つ環境をととのえる 人も、自然も

3 「あいだ」の豊かさ、部分と全体 NPO法人SOMAの取り組み3
6)全ての恵みが生まれてくるところ

山は本来、わたしたちにとって、とても身近な存在だった。これからの「山との付き合い方」について、話が展開していく。
———白川静先生が『字統』で書かれていることですが、山の語源は「霊気を含めて全ての恵みが生まれてくるところ」なんです。この感覚って僕らには全然違和感がないと思うんですよ。お盆のとき祖先は山からまちに下りてきて、そしてまた山に帰っていく。それで送り火をやる。あるいは、春になったら「今年も恵みをよろしくお願いします」、秋になったら「今年も恵みをありがとうございました」と岳参りをする。そんなふうに、山とのつながりが元々密接にあったのに、明治以降、西洋のアルピニズムが山登りの中心になってしまった。
こういった自然観をもう一度、どういうふうに自分たちでつくり直していくか、その実践のなかで山の見え方が変わってくるし、山の意味合いが変わってくると思います。部分部分をやるのではなく、自分たちがどう生きて、どう美しい風景を残していくかっていう全体観をもとに、日本の文化に合うようにきちんと考え方をまとめて実践していくことができたらいいんじゃないかなって思うんです。(春山さん)

———自分と山との付き合い方を考えていくということだと思うんですけど、中川くんや西野くんの「山観」はどうですか。(瀬戸さん)

———僕は小さいときから親父に連れられて植樹祭に行っていたので、木を植えるとはどういうことか、子どもながらに思っていました。木を植えるときに親父がさらっと「これ、何百年も生きるから」って言うんです。自分の命より長いものを扱っていて、すごく長期的な視点を得た気がするんですよね。そういうことを子どものときに学ぶのが大事なんだと思って、いま環境教育にすごく力を入れているんです。そういう感覚を少しでも持てれば、山観や自然観みたいなものが得られるんじゃないかと思っています。(西野さん)

———教育ということで数字に戻るんですけど、僕は住んでいる田辺市の教育委員会に聞いたんです。「小学校6年間で林業ってどれぐらいの時間学ぶんですか?」と。教育委員会の方の答えは15分間でした。田辺市は紀州備長炭っていう炭が有名なので、その15分のうち10分間は備長炭の話をしている、と。ということは6年間の義務教育で5分間しか山のことを学ばないんです。あんなに山ばかりの和歌山県なのに。
なので、僕らが課外授業で小学校に行かせてもらって、学校にもドングリを置かせてもらって、子どもたちと植樹祭をしましょうと話しています。
最近、衝撃的だったのが、ネットフリックスやYouTubeなどが流行りだしてから、スタジオジブリの「となりのトトロ」を知っている子どもの割合が5割を切った、と。アニメーションから山のことを知る機会も減っているんだと思いました。
山を体験するしくみを作り、それに参加させてあげようという大人の心意気で、子どもたちに山を知ってもらうことで、地域の山を守れるかどうかが変わってくると思っています。(中川さん)