5)未来に対する報酬
———僕は山結びのプロジェクトをまず15年というかたちでスタートしましたが、植えた木が寿命を全うするまでと思うと、300年とか350年後ぐらいに何を残せるか、ロングスパンで考えないといけない。この土地の300年後を自分たちでつくっていくことは、自然環境を自治するスタンスでは重要かと思います。
山結びでは、市内の保育園とのコラボレーションを試みています。子どもたちはドングリが大好きですが、そのドングリが実際に苗木になって木になっていくことは、子どもたちのなかで意外とつながってないんです。それをつなげていこうと。
ふだんの山結びでは、山で伐った木を斜面が崩れにくくなるように置いて、土地にお返しする。そこに卒園の記念に、保育園児たちが自分たちで育てたドングリの苗を植えて、山を更新していくんです。今年の秋から子どもたちと、ドングリ拾いから始めました。
中川くんは先駆けて、和歌山で地域の人たちが集めたドングリと耕作放棄地を活用して、苗木を育てたりしている。未来に対しての報酬ですよね。
春山さんはいろいろなかたちで山にかかわられていますけど、ロングスパンの環境再生という観点ではどうでしょうか。(瀬戸さん)
———西野さんや中川さんのように、山にかかわる職業を増やして、それが憧れの職業になるっていうことが1つ大事。一石二鳥っていう言葉がありますけど、木を植え、森をつくることは一石百鳥ぐらいのことだと思うんですよ。
そして、職業を増やすだけじゃなくて、僕は意味のイノベーションがすごく大事だと思っています。木を植えている、森をつくっているだけじゃないんですよ。水や土や空気をつくっている。つまり0次産業なわけです。0次産業といっているのは、海藻を研究している新井章吾さんですが、一次産業よりも前に0次産業がある。農業をしようが林業をしようが漁業をしようが、水と土と空気がないと、そもそも生物は成り立たないし、植物も魚も育ちませんよ、と。(春山さん)
———木を植える意味づけということでは、山結びを始める前に地元の方々にお話を聞いたんですけど、登ったことのある人は本当に少なかった。僕は地元のシンボルの山だと思っているんですが、山に登る、山を愛でる理由がないんだろうな、と。だから植樹の機会を作りたいんです。
木は僕たちよりも長く生きていく存在なので、それに会いに行くという、山に行く強い理由を自分たちに与え続けてくれるんじゃないかと思います。(瀬戸さん)