アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#127
2023.12

育つ環境をととのえる 人も、自然も

3 「あいだ」の豊かさ、部分と全体 NPO法人SOMAの取り組み3
1)自然環境を自治するということ

SOMAの主宰する「山結びフォーラム」は、福津市の後援を受けて開催する山結びの定期報告会。多方面の専門家とともに、山結びの活動を広く捉えようという試みである。
第2回のフォーラムは、2023年8月20日、山結びスペシャルツアーの翌日に福津市中央公民館で開かれた。瀬戸さんのオープニングトーク、瀬戸さんと造園家で山結びの技術面を主導する轟まことさんの対談ののち、林学博士の西野文貴さん、YAMAPの春山慶彦さん、林業家の中川雅也さんを迎え、パネルディスカッションを行う構成だ。
福津市内はもとより、九州各地、さらに本州からやってきた聴衆もいる。山結びの参加者もそうだったが、老若男女が入り交じる。SOMAの活動と、「自然環境と人のかかわりかた」というテーマに対する関心の高さがうかがえる。

山結びの活動を始めて半年ほどの前日、山にはささやかな、しかし大きな変化が起こっていた。前回の記事を参照されたいが、土はふかふかとやわらかに、水の通り道も生まれつつあった。
その静かな興奮もさめやらぬなか、瀬戸さんが大きな視座から話しはじめる。

瀬戸昌宣さん

瀬戸昌宣さん

治水治山を見直す

———地球はコントロールできない。これを僕らがこの7月に日本全土、特に西日本で思い知ったような気がするんです。あらゆる場所で豪雨になって、超局所的な雨が降って、水があふれて水害が起きる。どうやら、これまで通りの水や山との付き合い方では難しいんじゃないかということは、みなさんも漠然と感じられているかと思います。

僕らは「治水治山」を見直す必要があると思うんですよね。
現代的な治水では、「集めて流す」ということが行われてきました。目の前に来てしまった水は全部集めて一気に川に流してしまえと。川に治水を全部押しつけてきた。降った雨は屋根で受けて雨樋で集めて土管に流して、土管に川まで運んでもらう。そして川が水を土砂と一緒に海へ流す。
穏やかに雨が降る時代が長く続いた時期は、それでもよかったのかもしれませんが、ここまで降るようになるなんて本当に想定外だったと思います。
雨をまず、山や土に戻していく。どうしても染み込ませきれなかったものに関しては、川に「すみません、お願いします」というかたちで、もう少し謙虚な付き合い方をしていく必要があるんじゃないかと思います。

「滞り」を解消し、巡りをつくる たしかな観察から

———自然は僕らの身体と似ている、といつも思うんですね。インプットがあってアウトプットがあって、体調が悪いときは、血液だったりリンパの流れだったり、いろいろなものが滞っている。
自然もまさしく、滞りが起こっているところにまずいことが起きます。僕らは山結びで、山に登って自然のなかの滞りを見つけて解消していっています。
山や森のさまざまな滞りを取ることによって、山の表面をゆっくりと水が流れ続けられるように。そしてその間に、土のなかにどんどん水が染み込んでいく。そうすると土に入ったものが途中から水として出てきて、入っては出て、また入っては出て、さまざまな水の巡りができるんです。
滞りを取ることで巡りをつくっていく。これが僕らが山結びでやっていることですね。

やっていると、自分にも自然をケアすることができるんだな、と思います。ケアという言葉は、キュア、癒すと語源が一緒です。英語で「正確な」を意味するaccurateという言葉にもキュアが入っています。何かに目を向ける、それを気にかけること。つまり誰かを本当に心を込めてケアするというのは、その人の状態を正確に見るということなんですね。茫洋と「自然ってこんなもんなんじゃないかな」ではなくて、みなさんの身の回りの自然をはっきりと観察することが非常に重要だと思うんです。

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■自然環境を「自治する」ということ

その暁に、山結びでずっと話している「自然環境を自治する」にたどり着けるんじゃないかと思います。これは僕が一貫して提唱していることのひとつですが、僕らは自然環境のケアを誰かに丸投げしているんですよね。水が蛇口から出なくなったら、「水が出ないぞ!」って水道局に電話して終わり。そこで「よし、井戸を掘ろう!」とか、「これからは雨水を貯めて自分で治水をしてみよう」って思う人はいない。でもやってみると言うほど難しくなかったりするんですね。こんなに雨水と僕らはコミュニケーションが取れるんだ!って。

前提として、自然は繰り返さないということです。たとえば福間海岸の波にしても、同じ波と僕らは地球史上一度も出会うことができない。一期一会がずっと続いていて。だからこそ、現状を徹底的に観察することに戻っていく必要があると思っています。
で、「こういうことかもしれない」と思ったら、まずはやってみる。自然ってとても正直です。間違っていたら、どんどんはじいてくれます。うまくいっていなければ、やりかたを変えてみる。そうするなかで「この土地はこんなふうにしてほしかったんだ」ということがわかってくるんですね。万能薬はないんです。
みなさんの、自分たちの、半径50cm、1mぐらいの自然で様々なトライ&エラーをしていただくしか、自然環境の自治というのは成しえないんじゃないかと思っています。

僕らは「山に芝刈りに行って、天然ガスを使うのは止めて、毎日薪を焚いて羽釜でご飯を食べて、昔に戻りましょう」っていうことはさらさら考えていないです。イオンがあっていいと思います。地球の裏側の人とも友達になれるんだし、携帯電話もばんばん使いましょうよ。でも、みなさんのいまの現代的な生活のなかで、ひとりひとりが自然との関係性を考え、つくっていただきたいと思っています。

ライブ感のある、熱のこもった瀬戸さんの語りは、人を引き込む。そして、言葉がまさに水のように沁み込んでくる。
ひとりひとりが意志決定して、身のまわりの環境と結ばれていくこと。あらためて、山結びは山と人を結ぶ、その豊かな「あいだ」なのだと思う。

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