7)全体のつながりのなかに入る
最後に、瀬戸さんが「部分と全体」という観点から、このフォーラムを振り返る。
———ここまで、一貫して部分を見るだけじゃなくて全体も見ようっていう話が出ていたと思います。
「この木はなんですか?」っていうところに注目するだけじゃなくて、その隣もそのまた隣も、そして土も風も、全部ひっくるめて環境は全体でできているんですよね。
よくお話するんですけど、全体のなかに部分ってあるじゃないですか。でも、部分だけから全体ができているわけじゃないんですよね。いまの医学技術だと、僕を骨と筋肉と臓器にきれいに分解することってできるんですよ。それをもう1回組み上げたら、こういうかたちになります。でも、僕はもうそこにはいないんです。部分だけではないものがそこを埋めているっていうのがネットワーキングのベース。つまり、何かとつながることで全体ができているという世界、自然というものの在りようなんですよね。
だから自分が部分として山にどう居続けるかじゃなくて、まずは山のなかに入る。そうすると山のなかで自分がどういう部分に成り得るのかが見えてくるんじゃないかと思います。まず、目的もなしに行ってみる、という。
YAMAPがサイトで「山歩(さんぽ)」をプロモーションしていますけど、本当にそういうことだと思うんですよね。登山だと上の点しか見えないから。登山口と頂上の点と点をいかに線で結ぶかという話ではなくって。こことここだけではない、ということです。そういうふうに、ご自身と何かのつながりをつくりあげる機会を持っていただけたらと思います。
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「人が育つ環境をととのえる」ことを掲げ、真摯に実践してきた瀬戸さんたちは、現在、身のまわりの自然と一人ひとりが自らの意志で関係をつくり、育っていけるよう、山結びに確信を持って取り組んでいる。
フォーラムを聞いていて、それぞれの言葉が確かに響いてくる感覚があった。ひとつには、登壇者が自ら体験した実感をともなっているからだと思う。
人と自然との「あいだ」が豊かになっていくことが、これからにつながる。一人ひとりができることを知り、それを実際やってみることは、大きな力に変わりうる。そうして、個々が変化しながらさまざまにつながっていくうちに、全体はしなやかに動き、潜んでいたありようもあらわになる。環境はいくらでも、ほんのささいなことで動きはじめるのだ。
子どもたちに、体験を。それもまた、登壇者がそれぞれの立ち位置から何度も言っていたことだ。最初に瀬戸さんが言っていたように、自然を観察し、ふれていくことは、その子自身のケアにもなる。うまくいかないことも、恐ろしさも身をもって知るなかで、子どもたちは自らをたくましく育てていける。そうして成長した子どもたちが、環境の改善にたずさわっていけるよう、喜びを持って森や山の仕事に就けるよう、選択肢を少しでも増やすこと。それに大人が与しやすくなるしくみづくりにも工夫が必要だ。そして、それは決して理想の夢語りではなく、わたしたち個々にかかっている。そのことを思い知る時間だった。
フォーラムの後、瀬戸さんの「僕はエデュケーションはI educate myself以外の何物でもないと思っています」という一言が腑に落ちた。SOMAの始めた山結びがこだまのようにつながっていくことを期待したい。日本の山がいきいきとよみがえり、人もまたいきいきと暮らしている数十年後を、わたしたちがつくる。
次号は、瀬戸昌宣さんと、人間行動学者・細馬宏通さんの対談です。ご期待ください。
第二回山結びフォーラム 動画
https://forum.nposoma.org
NPO法人SOMA
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植物と人 雨の森
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YAMAP
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株式会社グリーンエルム
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文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本–京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員
1984年生まれ、京都市在住。写真家、1児の母。暮らしの中で起こるできごとをもとに、現代の民話が編まれたらどうなるのかをテーマに写真と文章を組み合わせた展示や朗読、スライドショーなどを発表。2009年 littlemoreBCCKS写真集公募展にて大賞・審査員賞受賞(川内倫子氏選)2011年写真集「ヨウルのラップ」(リトルモア)を出版。