アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#123
2023.08

千年に点を打つ 土のデザイン

2 土から生み直す 常滑の底力
2)人間の暮らし、年間サイクルのひとつとして
鯉江明さん2

明さんが焼きものを始めたきっかけは、破天荒な陶芸家美術家の父・鯉江良二にある。といっても、明さんはすんなり父と同じ職業に就いたわけではない。福祉を学んだ後、仕事を模索していた頃に、良二さんの窯づくりを手伝い、強く惹かれたのだという。
その一方で、明さんは常滑で中世古窯の発掘調査などに参加する。

———実際行って、窯跡に入るとすごいですよ。

窯には土と火の痕跡が残り、それを扱ってきた職人たちの熱量も宿る。明さんは発掘にいそしむうちに、焼きものを生業にする、と決める。

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常滑の中世の古窯を代表する「籠池古窯」

常滑に来て、明さんと出会ったことは、高橋さんの進む方向に大いに影響を与えた。
それまではデザイナーとして、「かたち」をつくることに主に集中していたが、原土を掘ることから始まる焼きものづくりを目のあたりにして、素材に開眼する。さらに、六古窯のプロジェクトなどで明さんに連れられて知多半島をめぐり、さまざまな場所で土に触れ、土という素材を身体で知っていく。デザイナーとして「かたち」だけでなく、「素材」に目を向ける大きな転換点ともなったのだ。

明さんの素材づくりは徹底している。土はもちろんのこと、焼きものに必要な木材なども、土地のもので自身がつくる。

———僕はつくるのに口実がないとできないんです。自分の表現をしたいわけではないので。
やりたいのは、窯を焚くこと。窯を埋めるためにものをつくっていて、そのために土もつくって。薪もそうです。そっちに愛着がないとダメだなっていう感じ。
(今使っている薪は)買ったものなんでこの薄さですけど、普段は丸太をもらってくる。それを集めに行くところから始めるんです。(明さん)

———知多半島は大きな山がないので、薪をくべるには、木材の調達が難しい。でも、明さんは「常滑でできること」をやっているわけで、それなら現場から出る廃材とかでやろうって。 (高橋さん)

丸太は、切るところまではできても、割るのが大変なのだという。しかし、中世と同じようにすることで、明さんは当時のものづくりや、素材の来し方を想像しながら、いま常滑でできることを誠実に行っている。

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自作の窯。窯の手前か奥か、下か上か、置く位置などによって、同じ土でもまったく違う風合いとなる

———僕のイメージとしては、土を掘って焼くのも人間の暮らしの一部だと思うんです。年間のサイクルのひとつというか。そのくらいまで自然と親密になれたらいいな、と。(明さん)

明さんの話を聞きながら、高橋さんがうなずく。

———明さんは、焼きものをつくるのが目的じゃないですよね。焼きものをつくるプロセスで土であったり水であったり木であったり、自然のものと触れ合っていく。その手段としての焼きものなんだろうなって思います。(高橋さん)

明さんの作品は、奇をてらわない。素朴なかたちで、土の特性を理解し、それを最大限生かして焼いている。何点か持ち帰ったが、使うたびに、天竺窯の景色や地層、土の欠片を思い起こす。器から時間を遡っていくように。それはまた、器を通して、それ以前の姿にふれていくような、不思議な感覚でもある。
常滑の風土をかたちにして、静かに差し出してくれる人。土に添い、大きな循環に身を委ねられる人。明さんはそういう存在だ。

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自然の炎がつくる土の表情は焼けむらとも言えるが、明さんは焼け「幅」と捉える