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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#115
2022.12

21世紀型の祭りをつくる

後編 わらじまつりの百年後を夢見て 福島県福島市
2)百年後をつくる1ピース

わらじまつりに限ったことではないが、大友さんは1年や2年で結果が出るような発想は持たない。長期的なビジョンを描き、そこに向かっていくことが、本当の意味での文化的な復興につながると考えているからだ。
大友さんが関わったのは大改革を行い、2019年のわらじまつりの開催まで。その後は、福島の人たちが自分たちで祭りをつくることが何より大切と考えたからだ。見守る立場からすると、これから重要なのは、ひとつには「子ども」だと思っている。

———小さい頃から関わって踊ったり、太鼓を叩いたりしていれば、今の大人たちよりはるかに技術がある大人に育っていくと思います。大人だと何年もかかってしまうけど、子どもはあっという間にある程度までこられますから。そこからスタートすれば、より先に行けるんじゃないかな。小さい頃からその文化に触れることはすごく重要で、やがて新しく始めたことが、自分たちの伝統になっていく可能性もあるわけで。そうやって自分たちの誇りのようなものを築いていってくれればいいかな、と。

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太鼓隊には小学生や十代も参加している。子どもたちの真剣な表情が頼もしい。会場では、プラスチックのバケツにカラフルなガムテをまいた「太鼓もどき」を子どもたちが叩いて遊んでいた

そのためには、子どもが夢中になって音を出したり、身体を動かせるような環境も大切になってくるだろう。たとえば練習が面白い、創造的だと思える場や機会があれば違ってくるのではないだろうか。
大友さんはこれまで関わったいくつかのプロジェクトで、子どもたちと音楽をつくることもやってきた。彼らと向き合う中から、それぞれの音が引き出されて、みんなでつくる演奏となる。プロジェクトが終わった後も、そのことは一人ひとりに、何らかのかたちで残っていく。例えば、2017年に札幌国際芸術祭で上演された「さっぽろコレクティブ・オーケストラ」(*、以下コレクティブ・オーケストラ)に参加した子どもたちは、5年経ってもその経験を自ら育てていたりする。

———先日「さっぽろ八月祭」(**)に行ったら、コレクティブ・オーケストラの子どもたちが何人も挨拶に来てくれて。でも、誰だかわからないんですよ。10歳だった子が15歳になっていて、男の子は声変わりしてますし、みな大人になっていてね。派手なピアスをいっぱいつけた男の子が来て、「大友さん、俺ミュージシャン目指してるんっす」って言われて。いい影響なのか悪い影響なのかはわからないけど、でも、あの時、子どもたちは、先生に教えてもらった通りに何かをやって成果を出すんじゃなくて、自分たちで考えてステージをやってお客さんから拍手をもらったという経験をしているんです。それがその子たちにとって、何かしらの自信になっているんだと思う。他にも学校に行けてないけど、自分の力で道を開いているような子が来てくれたりとか、逆に、あの時の経験をもとに大学に進学して、社会学をやりだした子とか。どこまで影響があったかはわからないけど、でも、種をまいたことが、そういうかたちで残っていくんだなって、しみじみと思っているんです。

コレクティブ・オーケストラに関しては、大友さんたちが子どもたちと濃く関わりながら、時間をかけてじっくりとつくってきたもので、そのままわらじまつりに当てはまるわけではもちろんない。
ただ、それくらい子どもは多くを吸収するし、その経験が子どもを支える。大人はそれを自覚して、単に楽しいだけでなく、子どもの自発性を引き出すことを考えていけるとよいかもしれない。コレクティブ・オーケストラの子どもたちが得た達成感は、悩みやスランプもあってのものだと思うから。そして、そこから大友さんが言い続ける「誇り」も生まれてくるのではないか。それは一朝一夕のことではない。1学期の授業で完結できるようなものでもない。時間をかけて「何か」を得ていく体験が子どもをつくり、祭りをつくる。「わらじまつり」には夢があるのだ。大友さんは先を見る。

———大体想像つくのは10年先くらいです。現実的にはせいぜいそれぐらいのスパンでしか見られない。でもね、30年先、百年先って考えてやっていくほうが、より夢を見られると思うんです。30年後にはブラジルから「このパターンをやりたい」って視察団が来るくらいの祭りになる。福島がリオのカーニバルの真似をするんじゃなくて、向こうの人が福島の祭りはすごいぞ、となって、その要素を取り入れるようになるとかね。夢物語でもいいから、そんなふうに考えることが重要だなって。そこから始めることが重要だなって。

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ドラマー芳垣安洋さんとともに太鼓隊に稽古をつけた鳴り物師 秀さん。祭り当日は演奏を見守りつつ、要所を締めていた。華のあるパフォーマンスに、観客の目も釘づけに。彼に憧れたパフォーマーが太鼓隊から出てくるのかもしれない

*さっぽろコレクティブ・オーケストラ……2017年に開催された札幌国際芸術祭のプログラムのひとつで、小学生から18歳までの「誰でも」が、能力や経験にかかわらず参加できるオーケストラ。公募で集まった60人の子どもたちとのワークショップを通して生み出されたさまざまな音を、コンダクターの大友良英と演出協力の劇作家・藤田貴大が即興演奏をベースにまとめあげていった。技術を向上させることや、正確に演奏することを求めるのではなく、一般的なオーケストラのように、作曲者や指揮者が中心となって全体をつくりあげていくものでもない。年齢も経験も異なる参加者たちが、一人ひとりの音を互いに尊重しながら、「今、ここ」で出会う他者との関係性の中からオーケストラを立ち上げていったもの。

**さっぽろ八月祭……2015年夏、札幌駅前通地区に生まれた祭り。メインイベントは大友良英率いる「さっぽろ八月祭スペシャルビッグバンド」の生演奏による盆踊り。会場は色あざやかな大きな風呂敷で彩られる。風呂敷は一般に呼びかけて集めた古い布や着物などをサポーターたちが縫い合わせてつくった、地域と地域をつなぐ象徴。