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アネモメトリ -風の手帖-

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#114
2022.11

21世紀型の祭りをつくる 

前編 福島わらじまつりの大改革 福島県福島市

5) 困難を乗り越えていく「みんな」の物語

わらじまつりの物語に関しては、もうひとつ重要なことがある。

———震災からのこれまでの福島の平坦ではない道のりと、わらじのストーリーがどこかでシンクロすればいいって思ったんです。みんなで力を合わせて困難を乗り越えていくような物語になればいいなと。渡辺さんもそのことは充分にわかってくれていて、あの話をつくってもらいました。

大災害や大人災を、地域のみんなで力を合わせて乗り越えるために。その過程にはさまざまな困難が立ちはだかるが、あきらめなければ、状況は変えていける。ゆっくりでも、ほんの少しずつでも。
もちろん、それはそのまま現実と重なるものではない。それでも、物語は人々の心の拠りどころとなりうるし、実際、長い歴史においても、その役割を果たしてきたのだと思う。

こうして生まれたわらじまつりの物語は、シンプルでわかりやすい。大蛇に田畑を荒らされ、ピンチにあったこの地の民が、天狗のお告げを受けて、みんなでわらじを編み上げた。そのわらじが大百足に姿を変えて、大蛇を退治し、大地が蘇るという話だ。

———この物語を土台にすれば、パレードをどうすればいいか、わらじをどう動かせばいいかが見えてくるものにしたかったんです。今まではわらじを回したり斜めにすれば派手に見えるとかって感じで動きを決めていたのが、わらじが大百足になったり、回転することで大蛇を退治したみたいな意味にしたりしていけばいいかなって。物語があることで、この祭りはどうしたいんだってのが見えてきて、この先、迷走したり、崩れたりしなくていいんじゃないかなって思ったんです。

物語は、文字で読むだけでなく、耳で聞いてもらうようにもした。福島の民話を語ってきた森和美さんに、福島弁に直してもらった。ちなみに、森さんはこの物語の朗読もされている。誰が聞いてもわかる程度に、福島の方言を多少取り入れ、イントネーションも生かす。祭りの場にその語りが繰り返し流れることで、人々は福島市に根ざした土地の物語を体感し、身体に取り込んでいく。それは、人々をつなぎ、祭りを支えるものとなりうる。伝統は現在進行形でつくられている。
これから長い年月を経るうちに、物語にはバリエーションが生まれたり、尾ひれがついたり、もっとシンプルになったりと変化し、成長しながら、人々のうちに定着していくだろうか。

「わらじまつり物語」文・渡辺あや 福島弁監修・森和美 絵・飯野和好

「わらじまつり物語」文・渡辺あや 福島弁監修・森和美 絵・飯野和好/HPに全文が掲載されている

そして、その物語とともに、わらじまつりは今後も持続し、進化していくだろう。改革を行った大友さんも、実行委員会のメンバーも目指すところは高い。そのためには何が必要なのか。具体的に、祭りのどの要素を育ていくのか。
次号では、祭り最終日の、信夫山での大わらじ奉納を見届けつつ、祭りの「技術」について話を聞いていきたい。

***
2019年の東北絆まつりは福島で開催され、新生わらじまつりが初披露された。
福島市の歴史と現在を伝える、エネルギーに満ちたパレードとなった。

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写真提供:福島わらじまつり実行委員会

写真提供:福島わらじまつり実行委員会

福島わらじまつり
https://www.waraji.co.jp/
取材・文・編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集者、文筆家。出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や冊子の編集・執筆を中心に、それらに関連した展示やイベントも手がける。文章表現や編集などのワークショップ、展覧会等を行う「月ノ座」主宰。最新刊に編著書『辻村史朗』(imura art + books)。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』(平凡社)、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)、編著書に『標本の本——京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)、構成・文『ありのまま』(著・梶田新章、リトルモア)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任講師・准教授。
写真:高橋 宗正(たかはし・むねまさ)
1980年生まれ。写真家。『スカイフィッシュ』(2010)、『津波、写真、それから』(2014)、『石をつむ』(2015)、『Birds on the Heads / Bodies in the Dark』(2016)。2010年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。2002年、「キヤノン写真新世紀」優秀賞を写真ユニットSABAにて受賞。2008年、「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞。