2)公園と保育園をつなぎ、まちにひらく
いふくまち保育園には園庭がない。その代わりに、隣接する古小烏(ふるこがらす)公園を活用しているのもユニークな特徴だ。
園内には、公園への通路まである。酒井さんの後をついて、園内の小さな階段をのぼり、大きな窓から外に出る。と、直接公園に抜けられる小道がある。「公園のフェンスも一部開けさせてもらっています」と酒井さん。公園では子どもたちの泥だらけの水遊びがはじまる。
酒井さんたちは保育園を立ち上げる過程で、2017年に「公園愛護会」という公園管理を行う団体を立ち上げた。会では、毎日の清掃活動や剪定、植え替え、遊具の安全確認などを行っている。現在は、手入れの行き届いた公園となっているが、会が立ち上がるまでは草がうっそうと茂り、動物の糞がたくさん落ちている公園だった。それを半年かけて、自分たちでハサミなどを手に整備していった。
———この公園があったからこそ、今の物件を借りました。当時は荒れ果てていましたが、園がまちにひらかれた風景を想像できたんです。区役所に相談に行ったら、「あなたたちが愛護会をつくってください」と管理を託されました。普通は愛護会をつくっても、30〜40代の働き盛りの人は忙しくて参加できません。保育園が管理するのであれば、掃除も日課としてできる。地域の人とのかかわりも自然と生まれ、子どもたちを見守ってもらえるようになります。日に日に公園が変わっていくと、地域の人も喜んでくれるようになりました。
荒れ果てたようにしか見えない公園が、少しずつ、まちにひらかれた公園へ変わっていく。酒井さんはそこに、保育園の未来像を見出していたのだろう。
公園内の花壇には、果樹や野菜も植えた。近所に住む土壌の研究者のアドバイスを得て花壇の土を入れ替えたり、スタッフの実家で飼っている馬の糞やコンポストを肥料として土に入れたり、収穫物は地域の人と一緒にその場で食べたりもする。しだいに、公園は地域の人がつながるコミュニティガーデンとして機能しはじめていった。愛護会が立ち上がった当初は作業を見ているだけだった子どもたちも、3年経ったいまでは自ら作業に加わる。
公園は子育てをする親にとって出かけやすい場所ではあるが、知らない親同士や地域住民とのコミュニケーションは生まれにくいものだ。その公園を保育園が管理し、おもちゃも提供する。外から来た子どもたちは自然と園児と一緒に遊びはじめ、親や大人同士の会話も生まれる。人が集まる場を機能させることで、公園がまちにひらかれた本来の姿に戻っていく。この取り組みは、保育園による公園活用の好例として注目されるようになり、大学の研究者や保育園関係者の視察やヒアリングを受けることもあるという。
地域に場をひらいていくなかで、「思いもよらぬ贈り物が届いたこともある」と酒井さんは地域住民とのクリスマスのエピソードを教えてくれた。
———クリスマスの少し前に、公園の木に手編みの靴下がさがっていたんです。それが毎日一つずつ増えていく。「サンタさん?」「なんだろう?」と、子どもたちは大喜びです。クリスマスの晩には、「これはあなたたちへのプレゼントだよ」と書いてある手紙が吊るしてありました。地域の方から、子どもたちへのサプライズのプレゼントだったんです。公園って、なんて豊かな可能性があるんだろうと思いました。
地域の人もこの公園がなければとらなかった行動だろう。ひらかれた公園を媒介として、同じ地域に生きる人々が育ち合っていく。まさにそんな光景だ。