(2018.04.29公開)
だいぶ前のことになるが、2000年に「夏みかんの終わり/End of Summer Orange」という作品を制作した。
京都の岩倉の森の中を歩いていると、カーブをしながらも100メートル程度ある緩やかな長い坂道を見つけた。長い坂道の下の車止めの柵を挿すための小さな穴も見つけた。夏の終わりだからか生い茂った木々に囲まれていたからか、森は薄暗く、たまに差し込む強い光はすぐに消え、暗い森に戻る。数種の蝉の鳴声、叡山電車の踏切の音が聞こえているが、ある瞬間、それらの音が消える。
このタイミングこそ夏が秋に変わる瞬間ではないかと、この場所のこの瞬間を確認しようと、暗い森の中の長い坂道の上から近所の小さなスーパーで購入した大きめの夏みかんを転がし、100メートル先に空いた穴に向かってホールインワンを試みた。夏みかんを転がしてみると、坂のカーブがきつく、坂の脇にある川に落ちてしまう。何度も繰り返してもなかなかホールインワンを達成できず、結局7時間もかかってしまった。7時間が経過する頃、暗かった森はさらに暗くなり、夏が終わるぎりぎりに強いオレンジ色の夏みかんが暗いトンネルを颯爽と転がり、森の中を走り抜けて行った。眺めている僕には長時間に感じられたが、1分程の時間で坂の下の穴に消えた。この様子をビデオ撮影し、「夏みかんの終わり/End of Summer Orange」ができあがった。
京都の岩倉の森で撮影された「夏みかんの終わり/End of Summer Orange」は、遠く離れた六本木やベルリンやフランクフルトやバルセロナの美術館やギャラリーやイベントで上映される機会を得た。六本木までは行けたが、その他には行くことはできず、京都の片田舎で転がった夏みかんがそんなにも遠くに行ってしまうことに驚いていた。
昨年、バルセロナに行く機会を得た。かつての「夏みかんの終わり/End of Summer Orange」の上映は、サッカースタジアムのオーロラビジョンでのビデオイベントだと聞いていたので探してみたが、その会場はすでになくなっていた。しかし、かつての状況をイメージするために、オーロラビジョンのあるサッカースタジアムを探してみた。バルセロナとはいえオーロラビジョンのあるサッカースタジアムはそうそうなく、FCバルセロナのホームスタジアムのカンプノウしか見当たらなかった。
朝食の残りのバレンシアオレンジを手にカンプノウを訪問した。客席からオーロラビジョンを眺めることができ、グラウンドにも立つことができた。17年前の会場とは異なるが、あの夏みかんに再会できた気がした。そして、目的を果たし、ゆったりと歩道を歩いていると、木々にぶらさがるものすごい数のオレンジを目の当たりにした。バルセロナでは、あちらこちらの街路樹にバレンシアオレンジが使われ、丸々としたオレンジが実り、熟したオレンジが路上に落ちていた。
日本の夏とともに消えた夏みかんは、地球の裏側に転がりながらバレンシアオレンジに変化し、スペインの春が始まる瞬間に立ち合うことができた。