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#95

医療のデザイン
― 早川克美

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(2014.12.28公開)

最近,2つの病院を訪れる機会があった.
日頃の不摂生がたたって,身体の不調の原因を調べるためだった.

最初に訪れたのは,全国から患者さんが集まる有名病院.
建物も館内も美しく整備され,心地よい待合環境となっている.患者の名前に「~様」と丁寧に呼びかける対応も従来の病院とは印象が異なる.「さすが有名病院だな」と感心した.

しかし,私はその病院を選ぶことはしなかった.

次に訪れたのは,老舗の中堅病院.建物は築20年くらいか,廊下の床に色のついたテープで「血液検査」「X線」と動線を区分けして示してあるような古いタイプの病院だ.待合室の椅子は最悪で,長い待ち時間,お尻が痛くなってくるのだった.

私は二番目に訪れた古びた病院を選んだ.

理由はいたって単純だ,患者にとっての医療の質が明らかに違っていたからだった.
最初の病院は2時間待って、やっと回ってきた診療時間は3分だった.患者である私の話を聞くこともなく、その応対はきわめて機械的であった.有名で全国から患者が集まる病院ゆえ、そのくらいの速度感でこなしていかなければならないのかもしれない.ただ、私の目をほとんど見ないでいたことが特に気になった.
二番目の病院は、やはり待ち時間は長かったが、診療時間は20分と十分な内容だった.医師はじっくり私の話を聞き,目をそらすことはなかった.
スタッフの違いも明らかだった.二番目の病院のスタッフには一人一人表情があり,問い合わせをした際にも快く応じてくれた.

医療の現場にもデザインが必要だと言われるようになって久しい.最近では,インテリアに凝っていたり,受付から会計までコンピュータシステムで管理されているところも珍しくない.しかし,はたして,そうした対象のみが医療デザインなのだろうか?

デザインにおける表層と価値の問題がここにある.見た目は大事だ.しかし,見た目は表層であってはならない.中身の価値を可視化した結果が見た目でなければならない.医療は,その本来の役割である医療の価値を,患者中心(ユーザー中心)に再構築する必要があるだろう.見た目はその後で十分なのだ.

最初に訪れた病院で待っている時,あぁここをコンサルティングしたいなぁと思う自分は,身体の不調以前にデザイン馬鹿として相当病んでいるのは間違いない.