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アネモメトリ -風の手帖-

風を知るひと 自分の仕事は自分でつくる。日本全国に見る情熱ある開拓者を探して。

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芸術を通した子どもの教育で、表現の根っこを育てる
― 水野哲雄

(2017.04.05公開)

子どもや高齢者、障がいをもったひとたちと創作活動を行い、表現することのおもしろさを伝える水野哲雄さん。京都造形芸術大学では、芸術と子どもの教育を融合させたこども芸術学科に2007年の開設当初から関わり、卒業生は福祉や教育の分野で活躍する。現在は自然豊かな丹後の宮津市が拠点のNPO法人地球デザインスクールの理事長をつとめ、子どもたちが自然環境に親しめる活動を行っている。教育と芸術、そして自然を結びつけることでどのような効果があるのだろうか。水野さんのアトリエで話を伺った。
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幼稚園で行ったワークショップで子どもに囲まれる水野さん。

幼稚園で行ったワークショップで子どもに囲まれる水野さん。

———芸術を通した子どもの教育に携わり、どんなことに気づきましたか。

子どもの成長と「何かを表現したい」という衝動は、直結しているということです。小さな子どもは誰かに教えられたわけでもなく、自発的に多くの言葉を発するようになり、身体を動かし、遊ぶようになります。そういったところに生きるエネルギーの表出というか、表現すること、つまり芸術の根源があるように思います。
赤ちゃんがハイハイするようになり、立ち上がり、歩きだすということも、ごく自然にできるようになります。誰かにみせるためにやっているわけではありませんが、これも自然な欲求に突き動かされた表現のひとつだと感じます。
とはいえ何かを表現しても、はじめから芸術とは呼べません。表現が深められ、そこに込められた意味が意識されるようになって、ある種の価値が現れてきます。たしかに子どもがつくった作品や絵は、技術的にはうまくありません。ですが、みていてとてもおもしろいんです。技術のつたなさを補ってあまりある、表現への欲求が感じられるからです。

———芸術を教育に取り入れることでどのような効果があるのでしょうか。

教育というのは、教えられる側が一方的に知識や技術を学ぶ受動的な面がありますが、自らが求めて何かに気づく能動的な姿勢を育む面もあります。芸術においても知識や技術はある程度、受動的に学ぶことはできます。ですが芸術の根源に立ち返ると、「何かを表現したい」という欲求があるはずです。表現したくてたまらないんだけど、何をすればいいかわからない。特に子どものころは、そういう状況があると思います。
こども芸術学科の学生は、子どもが遊びながら表現できる方法を学びます。さまざまな素材や道具でものをつくったり、絵を描いたりして、身体を使って子どもと一緒に何かを表現します。まずは表現してみることで、「自分がやりたかったのはこういうことなんだ」と気づくことができます。ものごとの意味や価値をあとから発見するという、通常の学習とは逆のプロセスです。
芸術の根っこである表現したい欲求に向き合う気持ちがなければ、新しい何かは生まれません。子どもたちのその根っこを育てることで、芸術に限らず、新たな生き方を切り開くひとが育つと思います。
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壁や床の画用紙に夢中で絵を描く子どもたち。

壁や床の画用紙に夢中で絵を描く子どもたち。

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キャプション:ゴミや不用品でつくった子どもたちの作品。

ゴミや不用品でつくった子どもたちの作品。

———芸術を通した教育の良さは、伝わっていると思いますか。

こども芸術学科で学んだ学生たち自身も、表現の根っこが育っているように感じます。風を知るひとで以前、取り上げられた森梨絵さん(1)や、薮内都さん(2)もこども芸術学科出身ですし、亀井友美さん(3)は助手をしていました。
画一的な知識や技術を一方的に教えるほうがはるかに簡単です。ですが、子どもと一緒に考え試行錯誤するからこそ気づくこともあります。わたしのゼミでは学生と児童館や幼稚園、障がい者施設などを訪問して積極的に子どもたちと関わっていました。
東京都町田市のしぜんの国保育園は、こども芸術学科ができてから、園長が訪問してきてくれました。芸術と子どもの教育を組み合わせた学科の出身者に、ぜひ来てもらいたいということでした。そこには毎年のように卒業生を送り出しています。芸術的な素養や感性をもち、子どもと一緒になって遊び、教育できる先生が必要とされてきているんです。

———もともと映像表現に取り組んでおられたそうですが、どのような経緯で子どもの教育について考えるようになったのでしょうか。

わたしは京都工芸繊維大学の意匠工芸学科というところでビジュアルコミュニケーションデザインについて学びました。主に制作していたのは、スクリーンや空間に映像を投影するビデオインスタレーションです。
1978年からは京都芸術短期大学ビジュアルデザインコースから映像コース、その後、京都造形芸術大学の情報デザイン学科で教えていました。
映像技術がどんどん進化して、今ではCGを使ってどんな映像でもつくれてしまいます。極端なことをいうと空想した映像がすべてつくれてしまうわけです。そうすると頭だけが肥大するというか、身体の感覚が置き去りにされてくるようになりました。
若い世代はそこで、新たな身体性を獲得するかもしれません。ですがわたしは子どものときの直接魚を掴んだり、どろんこ遊びしたりという身体感覚を養うことがなければいい表現は生まれないと、パソコンに向きあっていて感じました。
原点にかえろうと思っていたところに、芸術基礎教育センターを立ち上げることとなり、その後、こども芸術学科の立ち上げに関わることになったんです。身体感覚の重要性を考えていたことで、子どもと芸術というものが、ちょうどいい具合にシンクロしたように思います。
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キャプション:地球デザインスクールの活動の様子。自然の中を散策したり田植えをしたり、自然の物で作品をつくることも。

地球デザインスクールの活動の様子。自然の中を散策したり田植えをしたり、自然の物で作品をつくることも。

———2012年からは理事長をされているNPO法人地球デザインスクールでは、どんな活動を行っているのでしょうか。

地球デザインスクールは「丹後海と星の見える丘公園」という丹後の宮津市にある自然公園を拠点に活動しています。この公園は140ヘクタールほどの敷地に森が広がり、名前の通り海に面しています。
ここでは子どもたちが自然の中で遊び、身体全体で表現したりするプログラムを実施しています。「海ガキ・山ガキになろう」と呼び掛けて、年に4回ほど行っている小学生を対象とした合宿を行っています。そこでは生きものの採集や野草摘み、摘んだ野草を使った調理、冬の時期には雪遊びなどで、身体をつかって自然と触れ合うことができます。

———自然と触れ合うことと、芸術を通した教育に共通する点はあるのでしょうか。

自然の中での体験は、子どもたちが身体を動かし、何かに気づき、発見できる機会になります。それは自由に絵を描くことやものをつくることと似ています。一方的に知識を受けとるのではなくて、五感を駆使して自らものごとの意味や価値に気づくのです。そこで得られる多様な身体感覚は、新しいものを生み出す芸術的な感性を養うことにもなると思います。ですから芸術を通じた教育と、根本的なところでつながっています。

障害をもった人が描いた水野さんの肖像。太い輪郭の中が色鉛筆で丁寧に塗られ何とも言えない味がある。

障がいをもったひとが描いた水野さんの肖像。太い輪郭の中が色鉛筆で丁寧に塗られ何とも言えない味がある。

———障がいをもったひとたちの芸術表現もサポートされているそうですね。そこではどんなことに気づきましたか。

今年の9月に、障がいのあるひとたちが描いた絵や作品を、いくつもの福祉作業所が持ち寄り展覧会を開く予定です。作業所のスタッフは忙しくて、なかなか横のつながりをつくる機会がないので、この機会に親交を深めてもらえればと思います。
わたしはこども芸術学科にいたときから、学生たちと障がい者の福祉施設や作業所に通い、一緒になにかをつくり、表現することの支援をしてきました。知的障がいをもっているひとの多くは、自分がつくったものにはあまりこだわりません。ものをつくったり絵を描いたりすることに集中して、楽しんでいる感じです。それは子どもも同じなんです。
芸術というと、できたものを鑑賞するというイメージがありますが、作り手の側からすれば、つくっている過程がいちばんおもしろい。知的障がいのあるひとたちの多くは、内なる子ども性を抱えたまま、作り手として芸術表現を楽しんでいます。それが伝わってくる本当に素晴らしい作品がたくさんあります。
いわゆるアウトサイダー・アートのように従来の芸術教育を受けていないひとたちの表現が素晴らしいというのは、芸大の教員だった側の人間としては、一体何を教えてきたんだろうと考えさせられます。芸術を教えるとか学ぶことについて根幹を揺さぶられますね。
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キャプション:京都にある水野さんのアトリエ「み塾」。子どもや高齢者と一緒につくった作品が所狭しと展示してある。

京都にある水野さんのアトリエ「み塾」。子どもや高齢者と一緒につくった作品が所狭しと展示してある。

———今、お話をうかがっているこの水野さんのアトリエではどんなことを行っているのでしょうか。

ここは水野塾を略して「み塾」と呼んでいます。未来の「み」と、実の「み」という意味もあって、未熟と“実”熟をかけています。熟した実というのは、高齢者のことです。ですから対象者は3歳児から元3歳児ということにして、年齢の上限はありません。
去年の11月から月に1回のペースでアート実験講座を実施しています。材料を持ち寄ってみんなで教え合い、楽しみながらものをつくります。12月には藁をもらったので、それでお正月のしめ縄をつくりました。
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デイケア施設の高齢者や児童館の子どもたちとも、水野さんを中心としたシニアが一緒にしめ縄をつくった。

デイケア施設の高齢者や児童館の子どもたちとも、水野さんを中心としたシニアが一緒にしめ縄をつくった。

———高齢者と子どもが触れ合いながらものをつくることで何が起こるのでしょうか。

大抵のお年寄りは、何かをするときに、まずは目的や技法を考えます。例えば絵なら描きたいという欲求より何をどう描くかを重要視する。意識が先にあって、手があとからついてくる。好きに描けばいいのに「自分はヘタ」だと言って、積極的になれない。それが子どもは逆で先に手が動きます。
その子どもたちの姿にお年寄りも刺激を受けて、表現するハードルが下がる。子どもはひもの結びかたとか、ハサミの使いかたをお年寄りに聞く。そういう相互作用があって、お年寄りと小さな子どもが一緒に表現活動に取り組むことで、新しい何かが生まれます。みていて面白いですよ。

———今後の目標について教えてください。

み塾や地球デザインスクールは、芸術や自然を通した教育の場であると同時に、ひととひとが出会える場にもしていきたいと思っています。わたしも使っていますが、SNSで誰かと知り合ったりつながるということがありますよね。それをネット上だけの関係ではなくて直接会って、一緒に何かができるような場を提供したいですね。


(1)
森梨絵|“近くの頼れる親戚” のように 子育てする女性を支援し、環境を整える
http://magazine.air-u.kyoto-art.ac.jp/kaze/154/

(2)
薮内都|アートではない活動が、障がい者の日常にやりがいをつくる
http://magazine.air-u.kyoto-art.ac.jp/kaze/150/

(3)
亀井友美|“才能”に障害のある・なしは関係ない! 福祉の現場から発信する芸術表現
http://magazine.air-u.kyoto-art.ac.jp/kaze/1674/


取材・文 大迫知信
2017.02.24 京都のアトリエ「み塾」にてインタビュー

プロフィール
水野哲雄(みずの・てつお)

1948年愛知県生まれ。74年京都工芸繊維大学大学院修了。視覚意匠工芸専攻、ヴィジュアルコミュニケーションデザインからビデオアートを展開。78年から京都芸術短期大学ビジュアルデザインコースの教員となり、映像コース、京都造形芸術大学情報デザイン学科、2003年〜2006年芸術基礎教育センターを経て、2007年に新設されたこども芸術学科で教鞭をとる。14年に同校を退職後、名誉教授となる。12年よりNPO法人地球デザインスクールの理事長に就任。自然と子どものふれあいをテーマにワークショップを企画実践する。16年よりアトリエ「み塾」を開設。3歳児から年齢の上限なく参加できる芸術のワークショップを毎月実施している。

 

大迫知信(おおさこ・とものぶ)

大阪工業大学大学院電気電子工学専攻を修了し、沖縄電力に勤務。その後、京都造形芸術大学文芸表現学科を卒業。現在は教育や文化、環境などの分野で、拠点の関西から海外まで広い範囲でライターとして活動する。
自身の祖母のつくる料理とエピソードを綴るウェブサイト「おばあめし」を日々更新中。
https://obaameshi.com/