アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風を知るひと 自分の仕事は自分でつくる。日本全国に見る情熱ある開拓者を探して。

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自由に考え、粘り強く“そうぞう”する子どもを育む
― 緒方希

(2015.12.05公開)

2児の母である緒方希さんは「自分の子どもも地域の子どもも、豊かな想像力を引き出せるよう育てたい」という思いから、子どもの絵画造形教室“コロコロクラブキッズアートスクール”をはじめた。教室を開いて3年経った今、全てのクラスが満員の人気を誇る。子どもからも親からも評判が良い。絵画造形教室では、どういった方法で、子どものどのような能力を伸ばしているのだろうか。緒方さんに伺った。

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——緒方さんは社会人として働いてから、京都造形芸術大学の通信教育部空間演出デザインコースに入学されています。入学前から、子どもの絵画造形教室を開こうと考えていたんですか?

大学に入学したのは2006年のことなのですが、そのころから絵画や造形を教える先生になりたいという強い思いがあったわけじゃなくて、芸術大学で学びたいという昔からの憧れの気持ちのほうが大きかったですね。
大学に入学する前は、結婚して夫と共働きしていました。それから憧れの気持ちを実現させたいと思うようになって、働きながら通える京都造形芸術大学の通信教育部への入学を決めました。そしてすぐに妊娠が発覚したので、働きながら通うことも通年で卒業することも難しくなったんですが、インテリアや建築、造形や照明など、興味のある分野を幅広く学ぶことができました。
はじめは何が自分に合っているのかわからなかったので、さまざまなことを学べる空間演出デザインコースを選びました。照明や建築も楽しかったのですが、学んでいくうちに最終的に残ったのが“子ども”と“造形”でした。
“子ども”というキーワードが出てきたのは、わたしが在学中に子どもを産んだことや、結婚する以前に幼稚園の先生をしていたことが影響していると思います。

——やってきたことが後からつながったっていうことですね。

そうですね。大学でも最初は欲張って、全部やってみたかったんですけどね。でもじっさいに体験してみて、自分には力不足なものは諦めがつきましたし、どういうことなら難しくても頑張れるかがわかりました。
それで絵画造形教室を立ち上げることによって、自分の子どもも地域の子どもも思う存分、豊かな想像力を発揮できるよう育てていきたいと思いました。卒業制作の際にそうした提案をしたところ、先生方が助けてくださって、子どもの絵画造形教室のコンセプトとか方向性を練り上げることができました。その計画自体が卒業制作になって、2012年の卒業した年に立ち上げたのが“コロコロクラブキッズアートスクール”です。

——緒方さんが運営されている絵画造形教室ではどんな活動をしているのでしょうか。

まずはワークショップからはじめたんですが、2013年4月から“コロコロクラブキッズアートスクール”として定期的に教室を開くようになりました。対象は4歳から12歳までで、教室は大阪府枚方市を中心に3クラスあります。現在は定員の36名が在籍していて、グランフロント大阪や滋賀県の百貨店などでも不定期に出張ワークショップを開催しています。
コロコロクラブキッズアートスクールでは、学習塾のように正解のある問題の解き方を教えているわけではありません。子どもたちが自ら考えて創作できるしかけを考え、環境を用意しているだけです。どんなことをすれば子どもたちが表現したくなるのか考えて、作品をつくりはじめるまでの導入や言葉がけ、そして素材を用意しています。
例えば、洗濯バサミだけとか綿棒だけなど、1種類の素材で何かをつくってもらうこともあります。素材の種類をあえて限定することで色々な工夫をする必要が出てくるので、なんでもたくさん与えるより、子どもたちが新しい発見をしてくれます。なので、用意する素材の種類や分量にはいつも気をつけています。
そうやって準備をしておけば、あとはもう、子どもたちの発想にまかせます。だから教室で何かを教えることよりもそれまでのプロセスというか、環境づくりのほうが大事ですね。

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小枝も作品に / 壁紙で輪っかの飾りをつくる

——ものが足りなかったり、制限された状態のほうが、子どもたちの思いもよらないところが引きだせるんですね。

今はものがすごくあふれている社会なので、店に行けば何でも安く手に入りますし、遊びだって工夫しなくても製品を買えば済みます。逆に言えば、自然のなかでルールを決めて遊びを生み出すとか、何も道具がなくても遊ぶとか、“足りないものがたくさんある”という状況は、今では貴重なものになっています。そうした何かが足りなかったり限定されたものしかない状況では、頭を使って工夫しながら新たなもの創造する必要が出てきます。子どもたちにはそうした経験をしてほしいですね。
「なくなったら買えばいい」とか「これがないからつくれません」と言わずに、必要なものがないなら代わりのものを自分でつくれればいいんです。道具がなくてもアイデアで乗り切る力を養ってあげられればと思います。

——教室では他にどのような企画を行っておられますか? また、そられのさまざまな企画の発想の源はなんでしょうか?

わたしには5歳と8歳の娘がいるんですけど、子どもとの暮らしのなかで発想が浮かんでくることは多いですね。例えばある日、娘が綿棒を並べてレリーフみたいにお絵かきをはじめたんです。それで「あ、これは、他の子どもたちがやっても楽しんでくれそうだな」って思ったので、教室の企画に取り入れたところ、子どもたちにも大人気でした。
また「子どもたちはどんな遊びをしたいかな」って常にどこかで考えている部分があって、目についたものがヒントになったりします。雑貨屋で飾っている小枝のレリーフを見たときも「これを子どもたちがつくるなら、どんな材料を使えば楽しいものになるかな」って考えています。
そして実際に発想したものを試作するとき、自分の娘たちにつくってもらって反応を見たり、問題点を探ったりしています。そうした企画を考えたり、娘と試作品をつくったりするプロセスも楽しませてもらっています。

——ほかには絵画造形教室の先生をしていてどんなことに楽しみを感じますか?

教室の子どもたちとものをつくること自体が楽しいですね。自分が子どものときに味わっていた胸がキュンとするような発見を一緒にできて、子ども心に戻れますよ。子どもたちは大人が想像もしてなかったものをつくるので、よく驚かされます。「こういうふうにしたらいいんとちがう?」とわたしが言って、その通りする子もいれば、そうしない子もいて、どっちも面白い作品になるんです。そうやって一緒になって遊んでいる感覚がいいですね。
子どもたちはどんどん新しいことを覚えて、年齢が上の子は下の子を思いやるようになります。子どもたちが成長するようすを見るのも楽しいですね。

——子どもたちはどんなふうに変わっていきますか?

最初は「これしていい?」「あれしていい?」って聞いてくる子が多いんですけど、最近は、自分で考えて行動するようになってきた子が多いですね。わたしがよく言う「何してもいいねんで」という言葉を、子どもたちもよく理解してくれていますね。
あと「あー、失敗!」と言う子も少なくなりました。「失敗はないよ」とも言っているんです。「失敗と思ってもそれが面白い作品になることもあるから、続けてやってみてもやり直しもしてもいいよ」ということもよく伝えています。実際に、失敗だと思ってもそれが面白いものができるきっかけになったり、次の学びにもなったりしますからね。失敗は悪いことじゃないんです。子どもたちはそうしたことも学んで、失敗と言わなくなったんです。もちろん入って来たばかりの子は言うこともあるんですが、だんだんと言わなくなって自由度が高くなります。
そして、何をやってもよくて、失敗はないと思うことができれば、すぐに諦めずに粘り強く考えられるようになります。ひとつの方法がうまくいかなくても、ほかのやりかたを探せばいいと思えれば、気持ちも軽くなるので新しいことにチャレンジする余裕も生まれます。

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一般の子どもたちも参加できるワークショップ「1万個の紙コップアート」のようす。子どもたちは難しい積み方にコツコツと挑戦したり、作品を変化させながら何度もつくり直したりする

——緒方さん自身はどのような子どもでしたか?

子どものころは勉強よりも遊びが好きで、空想ばっかりしていました。自分で遊びを考えるのも好きで、みんなで遊ぶときも、いつもやっている遊びのルールを変えて「こんなん面白いんちゃう?」って提案していました。そうすると、みんなが自分のアイデアを採用してくれて、その遊びがいつもより盛り上がったりしました。それが面白かったですね。
当たり前だと思っていることでも、新しい方法を生み出せると子どもながらに感じていました。だから困難なことに直面したときも、まだまだやりようはあるんだと思えたんです。芸術大学に通ってみて、そうした考え方を育むための環境やしかけづくりが大切だという考えにいたりました。

——子どもたちの創造性はどのように伸ばしたらいいと考えますか? 何かを模倣することも大切でしょうか?

創造性は子どもたちが元々持っていますから、年齢が低いと固定概念がないので、いろいろなものに発展できるんです。でも、成長するに従って多くの概念が入ってきて創造性が固まってしまうという気がします。だからわたしは、子どもが元々持っている創造性が膨らむ手助けをするために、「失敗なんてない」とか「新しいことにチャレンジしよう」と言っています。
模倣からはじまるというのはデザインの世界では聞いたことあります。子どもの創造性は、五感を使った経験から育まれていくと思います。野山を走っていろんな種類のドングリを拾って、それを手で触って匂いを嗅いでいくうちに、感じたことが蓄積されていくんじゃないでしょうか。それは真似をすることとは違うと思います。
わたしの教室では「これを見て同じように描きましょう」ということはせず、自然と出てくるものを大切にしています。たとえばイカの実物を用意します。そして見て触って感触を確かめて、匂いを嗅いでから描いてもらいます。イラストとか写真を見せて、それを描かせるということはありませんね。

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子どもたちはイカの吸盤や目の感触に大騒ぎ / 実物のイカを触ったあとに描く絵は迫力満点

——一般の家庭でも子どもの創造性や柔軟性を養うにはどんなことをすればいいですか?

トイレットペーパーの芯や牛乳パック、お菓子の箱などを入れた段ボールやのりやハサミなどをリビングに置いておくといいですね。お金をかけなくてもいいですから、ゴミになるようなものでも自由に使える環境さえあれば、子どもたちは自然と面白いものをつくってくれます。あまり「ああしろこうしろ」と言わずに、子どもが伸び伸びと創作に励める環境を用意してあげてください。そしてときには、親御さんも子どもと一緒に楽しんでみるといいですよ。
コロコロクラブキッズアートスクールでは親子で参加できるワークショップも開催しているんですが、これは親御さんにとって子どもの意外な一面を発見する機会にもなっています。そのワークショップでは、自分の子どもが「意外と几帳面だった」とか、「集中力があった」とおっしゃっている方もいて、親子のきずなを深めるきっかけのひとつにもなっています。

——教室に通った子どもたちが大きくなったときにどうなってほしいと思いますか?

わたしはひと握りのアーティストを育てたいわけじゃないんです。営業職でもお医者さんでもエンジニアでも、どんな仕事に就いたとしてもその分野のなかで“そうぞう”ができるひとになってほしいです。“そうぞう”というのは、つくるほうの創造と、頭で考える想像ですね。そして、どんな分野で働いても何かを変えられるような、広い意味でのアーティストになってくれればいいですね。
仕事の効率をさらに上げることでも、環境問題の解決策を生み出すことでも、やっぱり新しいアイデアなり創造性なりが必要になってくると思うんですね。コロコロクラブキッズアートスクール出身の子ひとりひとりが身の回りの環境から創造性を発揮して、いい方向に変えていってくれれば嬉しいです。それがつながって未来は今よりよくなると信じて、これからも子どもに関わっていきます。

インタビュー・文 大迫知信
2015.10.7スカイプにて取材

プロフィール

緒方希(おがた・のぞみ)
幼稚園の先生として働いたのちに結婚し、事務職に就く。2006年に京都造形芸術大学通信教育部空間演出デザインコースに入学し、在学中に2人の娘を出産。子育てのための休学期間を経て、2012年に卒業後、子どもの絵画造形教室「コロコロクラブキッズアートスクール」を立ち上げる。口コミで評判が広がり、定期的に開催する3つのクラスは満員で、関西各地で不定期に開催する親子そろって参加できるワークショップも盛況。「子どもたちをアートを通じで育てたい」という思いのもと、精力的に教育活動を行っている。
コロコロクラブキッズアートスクール
http://corocorokids.gozaru.jp/index.html

大迫知信(おおさこ・とものぶ)
工業系の大学を卒業し、某電力会社の社員として発電所に勤務。その後、文章を書く仕事をしようと会社を辞め、京都造形芸術大学文芸表現学科に入学する。現在は関西でライターとして活動中。