アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#51
2017.08

横道と観察

1 細馬宏通 「枝豆理論」で生きてきた
はじめに。ホソマさん、あなたはいったい、何者ですか?

今回から二度にわたって、研究者の細馬宏通さんを取り上げます。
『アネモメトリ』では、ひと、モノ、地域をアートとともに考えるなか、ものづくりの作家やアーティストに
は数多くインタビューしてきましたが、研究者の方にじっくり話を伺うのは、実は今回が初めてです。
細馬宏通さん(以下、ホソマさん)は、ひとの会話とジェスチャーの分析を行う研究者。一方で19世紀以降の視聴覚メディアにも関心を寄せ、ミッキーマウスからユーミン、アニメーション『この世界の片隅に』に至るまで、守備範囲の広さとその分析のユニークさで、右に出る者はいないでしょう。
でも、どうして『アネモメトリ』で
ホソマさんなのか。なぜなら、ホソマさんは何よりまず、きわめてすぐれた「観察者」だから。そして、「目の前のことを、ひたすら観察する」姿勢は、広い意味でのアートに他ならないと思うからです。観察することはとても豊かでクリテイティブで、さまざまな扉が開かれます。ユニークな道を辿りながら、ホソマさんが見いだしてきたものとは。

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細馬宏通さんをひとことで言いあらわすのは難しい。
「声と身体動作」から、人間の行動を観察・分析する研究者。その一方で、音楽をはじめ映画や演劇、マンガにいたるまで、さまざまなメディアの作品の分析もおこなう。ここ最近は、その独特な面白さに各方面からのオファーも絶えず、トークイベントやレクチャーなどで引っ張りだこの人気者だ。ちなみに彦根在住、滋賀県立大学の教授でもある。もうひとつちなみに、シンガーソングライターの「かえるさん」でもあり、「かえる目」というバンドもやっている。

こんなふうに紹介すると、よけいわからなくなったかもしれないけれど、ホソマさんは本当に、知れば知るほど輪郭がつかめない。ホソマさんの話すことも書くものも、そのつどとても面白いのに、振れ幅があまりに大きいせいか、それぞれがうまくつながらないのだ。なんだか、ちょっともどかしい。
著書の一部をざっと並べるだけでも、その感じは少し伝わるかもしれない。
最新刊は、介護施設の入居者や職員の身体動作によるやりとりを観察した『介護するからだ』(医学書院)。その発見と気づきはそのまま、わたしたちの日常にもつながってくる。
一方で、数年前には、NHKの朝の連ドラ『あまちゃん』を欠かさず見て、ほぼ毎日書きつづけたブログを元にした『今日の「あまちゃん」から』(河出書房新社)を上梓。続けて、ブラジルのサンバにビートルズ、ユーミンにperfume、小学校唱歌まで、古今東西の歌を繰り返し聴き、歌いながら、しくみを見いだした『うたのしくみ』(ぴあ)を刊行。それぞれドラマや音楽の見かた、聴きかたをがらりと変えてしまうような内容だった。
メディアへの関心は今の時代に限らず、近代にも目を向ける。明治から大正末期にかけて、東京のランドマークだった浅草凌雲閣を扱った『浅草十二階』では、52メートルの塔からの眺めと石川啄木や田山花袋など文学者のまなざしを交差させ、そのときの資料集めから始まった『絵はがきの時代』では、近代の視聴覚技術を集大成するメディアとして、世界の絵はがきを取り上げた。

これだけの広大なフィールドで、観たり聴いたりの「観察」に膨大な時間を費やし、「これ」というものを探りあてるホソマさん。その手つきはあざやかだ。緻密な調査としなやかな感覚で、あっと驚く何かをわたしたちに差し出してくれる。それも、とてもわかりやすく、やわらかな言葉と表現で。
だからこそ知りたい。ホソマさん、あなたはいったい、何者ですか? どんなふうにしてホソマさんになったのですか? たっぷり語っていただいた。
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滋賀県立大学キャンパスのホソマさん / 研究室には、学生などが持ってきてくれたかえるグッズがたくさん / 主な著書一覧。他にもたくさんあります

細馬宏通(ほそま・ひろみち)
1960年生まれ。現在、滋賀県立大学人間文化学部教授。日常生活の中の身体動作を研究している。また、絵はがき、パノラマ、塔などのメディア史、ポピュラー音楽史にも関心を寄せている。著書に『介護するからだ』(医学書院)、『絵はがきの時代』『浅草十二階』(青土社)、『絵はがきのなかの彦根』(サンライズ出版)、『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか アニメーションの表現史』(新潮社)、『今日の「あまちゃん」から』(河出書房新社)、『うたのしくみ』(ぴあ)など。近刊に『二つの「この世界の片隅に」』(青土社)。バンド「かえる目」では作詞作曲とボーカルを担当。