アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#51
2017.08

横道と観察

前編 細馬宏通 「枝豆理論」で生きてきた
1)基本、受け身。自分流で「発見」していく

———最初に、ホソマさんは子どもの頃、何をやりたいと思ってましたか?

僕、あんまり劇的な事件ってないんだよね。もしかしたらそれは僕の重要なポイントかもしれない。「これをぜひやりたい」とかなくて。今もそうだけど、どっちかっていうと受身なんですよね、だいたいが。

———自分から進んで何かしてきたんじゃないんですね。では、どんなものを、どんなふうに、見たり聴いたりしてきたんでしょう。

中学に入った頃、父親が買ってきたカーペンターズのアルバムを聴いて、いい曲多いなあって思ってたら、カーペンターズのコード譜が中学生新聞かなんかに載ってたのね。でも、コードなんて知らないから、CとかFとか書いてあるけど、これはなんだ? って。
で、その頃妹が買ってもらったピアノで弾いてみて、Cを探ってあれこれやってたら、ドミソだってわかった。次にG。アルファベットでC、D、F、Gの順番だから、譜面にあるところを弾くとわかる。
そうやって、だんだんと解析していったわけ、自分で。そしたら、大文字のアルファベットが「C」みたいに書いてあるときは、鍵盤の上で4ついって、3ついくといいってわかったんです。あとでこれが「メジャー」だって知った。一方、「Cm」みたいに小文字がついてるときには、3ついって4ついくといい。これが「マイナー」。さらに「C7」って書いてあるときは、ふたつ下がるおまけみたいなのをつければいいってわかったんですね。これが「セブンス」。そういうのを「コード」っていうんだってのはあとで知った。
それから、まずは3本指でカーペンターズを弾く練習をしたわけ。実際は、セブンスとかは3本じゃ足らないから、4本必要だけど、その場合は、左手でアルファベットにあたる音を弾いて残りを右手で弾いたら、どうにか格好つくってことがわかって、そこから面白くなった。カーペンターズに限らず、世の中のポップスはおおよそこういうものでできている、ってことがわかったんですよ。他の曲でもとにかく知ってるコードをいくつか試して弾いてるうちに、ふつうのポップソングだったら、聴いたらコードが書けるようになった。そういうのを、中学のうちはずっとやってましたね。それが楽しくなっちゃって。

———自分流でコードを見つけたところから始まって、その後、音楽をやるようになるんですか?

カーペンターズの後に、世の中はシンガーソングライターブームになって、五輪真弓や荒井由実が出てきて、荒井由実に衝撃を受けたわけ。歌詞の内容もメロディも聴いたことがないもので、このひとなんなの? って。日本のポップスなんかどうでもいいや、と思ってたけど、なぜか荒井由実すごいじゃん、と。
その次に矢野顕子がデビューするわけだよね。このふたりはティン・パン・アレイがバックをやってて、そこから(メンバーだった)細野晴臣すごいよねってことになってくる。はっぴいえんどとかも遡って聴くようになって。気になる曲を何度も何度も、よく聴いてたね。

———繰り返し聴いて、何か見つかるんですか?

なんでここでオルガン入るか? とか、なぜこのベースライン? とかそんなことばかり考えていた。最初は、どの音がベースかオルガンかすらわからない。でも、繰り返し聴いてると、わかるようになってくるんだよね。今にして思えば、だんだん分析的な聴き方になっていったのかな。
だから、予備知識もないのに自分で納得するまで聴いたり見たりしているっていうのはあったかもね。それも、もっぱら音楽だったと思う。高校のときは映画、アニメはほとんどスルーだったから。世間知らずだったんですよ。
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授業はもっぱら板書するホソマ先生。「ノートテーイングしてもらった方がいいかな、と。パワポはノート取りづらいから」

話をしながら、板書してくれるホソマさん。授業ももっぱら板書する。「ノートテイキングしてもらった方がいいかな、と。パワポはノート取りづらいから」

———視覚的な興味はどこからでしょう。

視覚は高校時代の少女マンガです。少女マンガに「発見」するわけで、なんといっても萩尾望都だった。『チャンピオン』の連載で『百億の昼と千億の夜』を読み始めて、こんなの読んだことない、って。それで少女マンガの棚を見るようになって、白泉社で山岸涼子、『マーガレット・コミックス』でくらもちふさこ、『サン・コミックス』で大島弓子を発見する。その頃は今みたいにビニル包装がなかったから立ち読みできたんです。あと、相当しつこく読んだマンガでいうと、三原順の『はみだしっ子』が大きかった。これを読み込むことでリテラシーがかなり上がった。

———少女マンガも繰り返し読んでいたんですね。音楽やマンガマニアだったということですか。何か書いて投稿したりしていたんでしょうか。

高校生のときに少女マンガと、今でいうシンガーソングライターの走りのひとに出合えたのは大きかったね。
でも、マニアやコレクターではなかったです。当時は自分で考えて、掘っていくだけだった。それも狭いところを。コレクター気質だったら、たとえば矢野顕子の曲は全部コンプリートして、なおかつそれについて1曲ずつ分析を加えていく、ローラー作戦のようなことをやると思うんだよね。ところがわたしにはそこがなかった。
それから、批評誌とか専門誌を買うほうにもいかなかった。ふつう、音楽が好きだったらその情報がもっとほしいから音楽雑誌を買ったりするじゃない。ロックなら『rock’inon』、マンガなら『ぱふ』とか批評誌があったし。でもわたしはいろいろ考えてはいても言語化してないし、書いたりもしてなかった。人様が語ってることも知らなかったね。