アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#41
2016.05

幸せに生活するためのデザイン 雲仙小浜から

後編 「ソーシャル」の本来的なありかたを実践する
7)じっくり、地道に「底力」をつけるということ

刈水庵をひらいてから、城谷さんはこの地区で「刈水デザインマーケット」を始めた。地区の方々にささやかながらお祭りのように楽しんでもらえたら、と考えてのことだった。最初は知人友人に出店してもらっていた程度だったが、今では奥津さんの友人が東京から参加するなど、県外からの出店者やお客さんもぐんと増え、春と秋の年2回、みんなで楽しめる刈水の名物イベントとなっている。
イベントとして大きくなった今も、地区の方々はこのマーケットを誰よりも楽しみにしてくれている。いろんなひとが通るから見ているだけで面白い、とおじいちゃんおばあちゃんが軒先に出ていてくれていたり、マーケットでものを買ったり、食べたりしていつも応援してくれる。

「刈水デザインマーケット」は、今の小浜らしさをしめす存在のように思える。美味しくて安全な食べ物や手作りの雑貨などを売るマーケットは、日本じゅうにある。でも、ここ小浜のように、地元の方たちを第一に考えて開催しているところはそうそうないのではないだろうか。各地からお客さんにきてもらえることはもちろんうれしいけれど、地区の方たちに喜んでもらって、地区に温かな良い空気が生み出されることが何よりうれしい、という姿勢は始めたころから全く変わらない。さらには、内輪や内輪のつてではなくて、城谷さんや奥津さん、「アイアカネ工房」の鈴木てるみさんなど、それぞれ別の道筋からやってきたひとたちがかかわりあって、成り立っているのもすこやかだと思う。

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刈水庵をはじめ、上のアイアカネ工房、路地などあたり一帯で開催。出店者の意識も高い(撮影:古庄悠泰)

刈水庵をはじめ、上のアイアカネ工房、路地などあたり一帯で開催。出店者の意識も高い(撮影:古庄悠泰)

城谷さんたちが行ってきたのは、じっくり、地道に、まちの底力をつけていく活動ではないだろうか。そこに I ターンの奥津さんのようなひとが共鳴し、地元の方々も含めたつながりが生まれ、たしかなものとなっていく。時間をかけて、誠実に取り組むことでしか培われない、ひとのつながりとまちのありようだ。
その変化は目に見えにくいかもしれないし、地味かもしれない。けれど、住んでいるひとたちはきっと、幸せや満足を感じる機会が増えていくに違いない。なんといっても、自分が幸せと思っているひとたちが、ひとの役に立ちたい、ひとを幸せにしたいと願い、動いているのだから。
城谷さんをはじめ、山﨑さん、古庄さん、そして奥津さんと話をするなかで、何度「幸せ」という言葉を聞いただろう。自分にとって魅力的な土地に暮らし、幸せを意識するなかで育まれる、まちの底力。それはきっと、小浜に限った話ではない。