アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#41
2016.05

幸せに生活するためのデザイン 雲仙小浜から

後編 「ソーシャル」の本来的なありかたを実践する
4)住み続けるために、新しいしくみを見つける
スタジオシロタニ・山﨑さんと古庄さん(4)

ふたりはよほどの用がないかぎり、小浜を出ない。豊かに暮らすことの意味を知り、日々の生活で刺激もじゅうぶんあるからだ。そのうえ、小浜には城谷さんの友人知人をはじめ、さまざまなひとがやってくる。さらには、ふたりのシェアハウスに泊まったりもする。

———めちゃくちゃ広いおうちなので、ゲストが多いんですね。いちばん多いときで、1ヵ月のうち25日ぐらい誰かがいたこともあります。そうしてうちに泊まってくれると、城谷さんがいないところでもゲストとお話ができるんです。だから、1回しか会ってないのにすごく深いつき合いになれたりします。ただ小浜で1泊してもらうのとは違うので、あの場所はすごく重要ですね。刈水庵もそうです。こうしてゆっくりお話ができる場所は、僕にとって大きな栄養になっています。(古庄さん)

小浜は小さなまちだけれど、日本の、世界のさまざまな場所やひととつながっている、ひらかれた場所でもある。ゲストによって多様な刺激がもたらされ、まちの文化に深みが生まれ、まちはより魅力的になっていく。
山﨑さんも古庄さんも、自分たちはとても幸せだと思っている。

———朝は温泉に入ってから、仕事を始めるんです。美味しいごはんを食べたり、遊んだりを楽しむ生活です。そのうえでいろんなことを考える余地もある。いい時間を過ごしていると思います。そうして僕が幸せになって、ひとを幸せにできたら、と。僕のような生き方が、誰かが生きる選択の幅を広げることにつながったらいいな、とも思う。
城谷さんに出会って、答えと課題をもらったと思ってるんです。“気持ちいい”ことに素直に生活して、ここで学ぶデザインをどう生かすか、見つけていきたい。小浜はこのままでもじゅうぶんいいけれど、僕が何かできるとしたら、すきまを埋めていくことだと思うんです。そうして、おじいちゃんおばあちゃんが僕たちに教えてくれたことを、次の世代に引き継いでいけたら、と。断絶させたくないという気持ちがあるんです。(山﨑さん)

自分が幸せにならないと、ひとを幸せにできない。そのことを実感するなかで、地区の老人たちに「惜しげもなく、与えてもらっている」ことに感謝し、それに応えたいと思うのは、とても自然な流れだろう。

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ふたりとも、今では住むほどに好きになった小浜にずっといたいと思っている。「好きな場所で自分なりにどう生きていくか、そのライフスタイルの確立と、自分のまわりのひとや自然、環境とのつき合いかたを考えたい」と山﨑さんはいう。
古庄さんは、最初はここで得たものを地元の糸島に持ち帰ろう、とも思っていたが、しだいに気持ちが変わってきた。

———子どもっぽい、泥くさい言葉かもしれないけれど、僕は「ここにいたい」し、最近では「返していきたい」と思ってます。でも刈水庵やスタジオシロタニにずっといるのは、あんまりよくないかな、と。城谷さんにとっても、僕が何十年と勤続するよりは、先輩が卒業して僕が入って、僕が卒業して新しい子が入ってという感じで、代謝を良くしていくほうがいいと思うので。だから、自然な流れのなかで、いつかはスタジオシロタニの籍を外すことになると思います。それでも僕は小浜で何かしらのしくみを見つけて、ここで自立して食べていけるぐらいの仕事をやっていきたいと思っています。

この土地が好きだから、ずっと居つづけるために、新しいしくみを見つける。
ふたりから出てきたことばは、自分たちがここで生活をするなかから生まれたものだ。それは城谷さんの考えるデザインでもある。
何かを実現するために、よく調べ、よく考えて検討し、実践する。城谷さんに鍛えられたふたりにとって、自分たちが納得する新しいしくみを見いだすことはじゅうぶん可能だし、城谷さんの思考を発展的に深めていくものにもなるだろう。