アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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#108

口切バサミ
― 佐藤 聡

(2021.12.05公開)

僕は吹きガラスで器などを作る仕事をしています。
溶けたガラスをパイプに巻き取り息を入れて膨らませる。テレビでご覧になったことがある方もいるかと思います。この作業で僕が使っている道具、口切バサミについて書いてみます。

20年ほど前に自分の工房を設立したのですが、工房にある設備はほとんど自分で作りました。道具も作れるものは作りました。マイナーな分野ですから吹きガラスの設備や道具を作るメーカーは少なくて、調べているうちに結局自分でコツコツ作るのが最良かな、という答えになりました。ガラスを溶かす溶解炉や焼くための炉、研磨機や作業台……何か一つ作ろうと思うと、構造を調べ、図面を引いて、材料を検討して買いに行き、一つ一つ時間をかけて作っていきました。
そうしてようやく出来た設備や道具でガラスを作ってみる。でも思うように使えなかったり、何か違うような気がするとまた改造を繰り返す。そんなことばかりをしてガラスより工房作りで最初の数年が過ぎたような気がします。
ガラスを作らねば、作りたい、という気持ちとそれゆえに早く道具も設備も揃えなくては作り始める事が出来ないという焦りやら、道具も設備も含め全部知っておきたいような。あれもこれもとやっていました。

工房でガラスは1300度ほどで溶かしています。この温度は卵ほどの大きさのガラスを巻き取って手を10~20センチも近づければ「お、熱つ」という感じで、紙や木をその表面に触れさせると、瞬間にポッと火がついてしまいます。
そんな温度ですから、当然手で触ることは出来ません。何か道具を介してガラスに触れ、形を作っていきます。押さえる、つまむ、切る、色々な動作にあった最適な道具が必要で、はさみはガラスを切るためにある訳ですが、単に切るという作業も色々あって、数も種類もそれに応じてたくさんあります。口切バサミは、主にコップなどを作るときに口の厚みを薄くするためにその部分の肉を切り取る作業に使います。

このはさみは使用頻度が高く、作業においてはタイミングが大切な道具です。切る瞬間は「むにゅ、サクッ」という感触ですが、ガラスは一瞬で冷えて固まります。手間取ると「バリバリ」と固い嫌な音をたててガラスを割りながらはさみが進みます。こうなると、刃はあっという間にダメになります。まだ未熟な頃は時折そんなことをしでかして、せっかくの道具を駄目にしたり。購入するには商社に注文をして、海外からの輸入を待ち、値段も高価……そんなこともあって、切れ味の悪くなったものを必死で使ったりしていました。そこで自作を始めたのでした。

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何度も作り直し、現在使っている口切バサミはこんな形です。
ホームセンターで買ってきた盆栽バサミと野菜収穫バサミの使いやすそうな部分を切り取って、合体させたものです。
まあ、見た目はあまり良くないですけど。
でも、これが意外に自分に合った道具でした。新しいとそこそこ良く切れて、自分の手に合うように色々と改造できる。耐久性はありませんが、切れ味が悪くなったらすぐに次のものに交換できます。作り替える度、前の使い方から考えて少しずつアップデートして改良できる。

当たり前ですが、ものづくりは自分の技術と設備や道具で出来ることは制限されます。技術があっても道具がなければ仕事はできないし、逆に良い道具があっても技術がなければ良いものが出来ません。制作の観点だけで言えば、この両輪のバランスが良くないとパフォーマンスが発揮出来ず、手の仕事とは結局道具の仕事でもあり、それを含めた知識と技術なのだなあと思います。
また独創性と言えるかどうかわかりませんが、自分だけの道具で生まれる自分だけのものもあります。この口切バサミはスタート地点でしたそれから自分なりに、作品に必要な道具をその時々に色々作ってきました。自分で思うものは全て自分で作れるのがベストですが、最近は道具を作る時間があまり無いのがちょっと残念でもあります。
僕にとって道具を作るというのは結局ガラスを作っていることなのでしょう。


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佐藤 聡(さとう・さとし)
ガラス作家
建築とデザインを学んだ後、住宅設計業務に携わる。その後、富山ガラス造形研究所にてガラス造形を学ぶ。ステンドグラス制作会社やドイツガラス工房「Bild-Werk Frauenau」での制作を経て2000年工房設立、2014年ガラスショップPONTE開店。
http://ponte-kyoto.com/