今回は知多半島のローカル線、JR武豊線を紹介しましょう。この鉄道は明治19年に東海道本線の建設資材を運ぶために開業し、日本の鉄道としては古いものです。今は、並走する名鉄に圧倒され、朝夕を除けばひっそりとしています。名古屋近郊という条件に恵まれながら、開業から130年近い年月が流れた今も近代化の波から忘れられたように、開業当時の面影を残しています。電化されたのも2015年のことでした。そんな事情があって、この鉄道には「日本最古の」という「肩書き」がつく鉄道施設が今も多く残っています。
そんな武豊線に残る鉄道遺産を紹介しようと思います。
1つ目は、亀崎駅。明治19年開業で、日本に現存する最古の駅舎です。建物はほぼ開業当時のままで、駅に残る建物財産標には「明治19年1月」の表示を見ることができます。この町の潮干祭は「山、鉾、屋台」の構成資産としてユネスコの世界遺産に登録され、5月初めの祭礼には毎年多くの人を集めます(2021年の亀崎潮干祭りは、新型コロナウイルス感染防止のため中止となりました)。
2つ目は、武豊線の創業当時の終点、武豊停車場跡に残る転車台。この形は日本で唯一のもので、国の登録有形文化財となっています。貨車を方向転換させるための施設で、今の転車台は昭和2年に作り替えられたものですが、それ以前には、明治時代につくられた木製のものがあったようです。
最後にご案内するのは、半田駅の日本最古の鉄道用跨線橋です。竣工は明治43年で、111年経った今も優雅な明治のエンタシス風の鉄骨に支えられ、傍らには、赤レンガ造りの油庫を従えて、すっくと立っています。しかし、この春から市内の鉄道高架工事が始まり、この跨線橋も取り壊しが決まりました。長い間、半田のシンボルとして市民に愛されてきた跨線橋が間もなくその役割を終えようとしています。
尾州廻船の江戸航路の拠点となった半田運河と運河沿いに続く黒く塗られた醸造蔵、明治の赤レンガ造りのビール工場、また、新美南吉の『ごんぎつね』の原風景が残る里山など、最近、話題になることが多くなった尾州半田郷を走る武豊線です。
(若尾憲治)
参考
半田市観光ガイド
https://www.handa-kankou.com
文化財ナビ愛知 旧国鉄武豊港駅転車台
https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunitouroku/1333.html