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#158

ときを紡ぐ~コロナの時代のいけばな展~
― 奈良県奈良市

2020年、全世界で猛威を振るう新型コロナウイルスの影響で、さまざまな場面で私たちの暮らしはこれまでと大きく変わることを余儀なくされました。美術館や博物館においても、検温や消毒などの感染防止対策の徹底だけでなく、オンライン予約による入館制限や、Zoomなどを活用したイベントなど、さまざまな新しい取り組みや工夫がなされています。
そのような新しい取り組みの一つとして、草月会奈良県支部の主催により平城宮いざない館で開催されている「草月いけばな展-ときを紡ぐ-」のユニークな事例を紹介したいと思います。
通常いけばな展の会期は短期間で設定されることが多く、いけ込み作業には一時にたくさんの人が集合しますので、いわゆる「3密」状態は必然となります。そのため今回のいけばな展の会期は、ちょうど同館にて開催される「元明天皇展」の会期の10月3日から1130日に合わせて2ヵ月間とし、その期間中に次々と作品を増やしていく方法がとられています。異例の長期間展示には、元明天皇をイメージして作品展示をするというコンセプトが示され、展示会場に一体感を生み出しています。
もう一つ、このようなコンセプトが生まれる背景には、「生花を使用できない」という会場側の制約がありました。会場となる平城宮いざない館には奈良時代の貴重な遺物が展示されているため、文化財保護のためのIPM(総合的有害生物管理)の観点から、館の入口付近以外には生の植物は持ち込みできないことになっています。そのようなマイナスとも言える条件を利用して、作品に生花を使用しないことでメンテナンスフリーとなり、逆に長期間の展示が可能になりました。まさにコペルニクス的転回とも言える発想によって今回のいけばな展のコンセプトが生まれたのでした。
従来の型にとらわれない今回のいけばな展には、いつでも、どこでも、だれにでも、そして、どのような素材を使ってもいけられるという、「草月流いけばな」ならではの作品がたくさん展示されています。この記事が掲載されるタイミングでもギリギリ間に合いますので、ぜひ会場まで足を運んでみてください。

(中井健二)

草月いけばな展-ときを紡ぐ-
https://www.sogetsu.or.jp/events/local/141327/

平城宮いざない館
https://www.heijo-park.go.jp/
奈良県奈良市二条大路南三丁目5番1

竹による大作「タイムトンネル~藤原京から平城京へ~」と朱雀門

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メタルラスを使用した作品「天空の華」

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「元明天皇展によせて~四神の護り~」

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