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アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

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#242

もう一度見たい景色、見上げたい空
― 福島県二本松市

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福島県にある安達太良山(あだたらやま)は標高1700メートル、日本百名山の一つです。登山の経験は片手で数えられるほどの筆者が、もう一度登りたいと願って、二十年越しの念願を果たした山です。
東北新幹線の郡山駅でローカル電車に乗り換え、二本松駅からバスで奥岳登山口へ向かいます。登山初級者はロープウェイを利用し、標高1300メートルの山頂駅へ。10分間の空中散歩では、眼下に二本松市や福島市の街並み、安達太良連峰、吾妻小富士、蔵王連峰などを見渡すことができます。そして、ロープウェイを降りると、平坦な山道を歩いてすぐの薬師岳から安達太良山連峰を一望することができます。
2023年は記録的な残暑で、紅葉前線はゆっくりゆっくりと山を下ってきました。10月に入ってからの朝晩の冷え込みで、10月中旬には山肌が一気に秋色へ変わり見頃を迎えていました。常緑樹の緑に、ブナ、ミズナラ、ナナカマドなどが赤や黄色に染まり、鮮やかなコントラストを描いています。あの紅葉をもっと近くで見たいと逸る気持ちに背中を押されるように、登山道に足を進めました。
しばらくは足場が板で整備された道が続き、軽快に足を運ぶことができます。進むほどに、木々がうっそうと茂る細道になっていきます。足元は粘土質の土になり、傾斜は急になり、口数は減っていきます。時に開けた場所に出ると、歓声があがります。遠くに一望した山肌の紅葉が、目の前に迫ってくる歓喜の声です。思い思いに写真を撮ったり、水分や糖分を取って休憩したり、エネルギーを補給して頂上を目指すのです。

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大小の石、岩がゴロゴロする道を抜けて山頂に着いてから、もうひと踏ん張り。別名乳首山(ちちくびやま)とも呼ばれる山頂まで上がると、磐梯山や飯豊連峰、蔵王連峰など、東西南北を見渡すことができます。そして、遠くに一望し、目の前に迫ってきた紅葉を、今度は見下ろします。もう一度見たかった景色は、二十年前と変わらずそこにありました。両手を広げて、見上げたくなる空がありました。

海老原仁美)