アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

TOP >>  風信帖
このページをシェア Twitter facebook
#154

全興寺と平野町ぐるみ博物館
― 大阪府大阪市

「ウソをつくと舌をぬくぞ」。アーケードを歩く道すがらひょいと現れる、鬼が描かれた看板。これを初めて目にしたらきっと誰もがつい足を止めてしまうでしょう。入口が商店街に直結している、(大阪市平野区)平野の全興寺(せんこうじ)は、今から1400年前、聖徳太子が当時野原だったこの地にお堂を建て、薬師如来像を安置したのがはじまりとされている古い歴史のあるお寺です(1)。
大きな寺院ではありませんが、昭和の駄菓子屋のジオラマやおもちゃを展示した「小さな駄菓子屋さん博物館」、151体の石仏に囲まれ、水琴窟の音の響く中で瞑想できる地下空間「ほとけのくに」、中に入ると閻魔大王と恐ろしい形相の鬼(の像)がいて、映像と音声で地獄の説明(と、いのちを大切にする、という子ども達への教え)が流れる「地獄堂」など、境内にユニークな施設があることでも知られています。
受付で配布されている「おもろいてら全興寺ご紹介ガイド」は、境内のお堂や仏像の説明の他、当寺で開催される催しも掲載されています。魅力的なのは「むかしはお寺の境内が遊び場だった。おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、おかあさん、お子さん、みんないっしょに遊びましょ!」と記された遊びの広場の紹介。全興寺では、毎週土日に「あそび縁日」、「バイゴマ(ベーゴマ)まわし体験」、毎月第4日曜日には街頭紙芝居の開催など、大人と子ども、様々な立場や世代の人がふれあうことのできる機会が設けられているのです。コロナ禍の現在は休止中ですが、ときどき、いつ再開するのかとこれらの催しを楽しみに待っている子どもたちから尋ねられるのだそうです。
「平野」は大阪で最も早くに形成された町。戦国時代には安全と自治を守るために住民が町の周囲に濠と土居を築いて環濠自治都市をつくりあげ、近世には海外貿易や廻船業で富を成した商人が活躍、河内木綿の集散地としても栄えました。戦火にも遭わず、江戸時代に完成した町割りの古い町並みが今も残る地域です。
そんな歴史ある町を見直し、個性ある住みよい町づくりをしようとさまざまな活動を行なってきた「平野の町づくりを考える会」事務局がこの全興寺にあります。
「おもろいてら全興寺ご紹介ガイド」と併せていただける「平野町ぐるみ博物館マップ」には、この界隈で親しまれているお店や名所旧跡が細かく紹介されています。「探してください、迷ってください、迷ったら町の人にたずねてください」と温かい言葉が添えられた素敵なマップ。古くからの歴史文化を受け継ぎ大切にしている地域の人々の暮らしを感じながら町歩きができます。もし平野を訪れる機会があれば、ぜひ手に入れて散策を楽しんでください(2)。    

(酒井千穂)

参考資料
平野の町づくりを考える会編(2018)『すっごいで平野は』平野の町づくりを考える会
村田隆志(2018)『ひらのツアーガイドテキスト』平野の町づくりを考える会

(1)
野中山全興寺
http://www.senkouji.net

(2)
平野の町づくり情報
http://www.senkouji.net/museum/town_info.html
平野町ぐるみ博物館マップ(PDF版)も掲載。

商店街とつながっている全興寺の入口

商店街とつながっている全興寺の入口

全興寺本堂

全興寺本堂

地蔵堂入口

地蔵堂入口

趣きのある古い町並みの通り

趣きのある古い町並みの通り