12年前、尾道駅に降り立った私は旅人でした。眩しいほどに新しく整備された駅前を抜けて、海なのか川なのかわからない尾道水道を眺めながらシャッターが目立つ商店街をぶらぶら歩く。ところどころに大林宣彦監督の撮影地である名残がある。それがよりいっそう町をレトロに見せていました。
1年後、縁あって尾道の人と結婚し、住人となった私は、やがて子供の入園式を迎え、そこで私と同じように男の子を両脇に連れたひとりの母親に出会うことになります。それが、いま尾道で空き家再生活動の中心となっている豊田雅子さんです。
2007年に豊田さんが立ち上げたNPO法人尾道空き家再生プロジェクトは、それまで潜在していた同じ意志を持つ市民や移住者をまとめ、こつこつと再生活動を続け、すぐに一般市民に知られる存在となりました。そして、それまで市が管理していた空き家バンクの運営を任されるようになり、同NPOが再生した「あなごのねどこ」というゲストハウス兼カフェで土日も移住者の窓口となり、市内外の仲間を家に招くように増やしていきました。
その勢いには目を見張るものがあり、普段通らない路地を1カ月ぶりに歩くと、空き家だった場所に新しいお店が出来ていたり、移住者から自然発生したコミュニティが各所で自主的にイベントを起こしていたり、点在する約100軒の再生物件を拠点にひとりひとりの小さな工夫とセンスが町の表情を変えてきています。
また、尾道水道を見渡す場所に建つ「みはらし亭」という国登録有形文化財である建物も、他の空き家と同様廃墟同然となっていたものを、同NPOと有志の手により再生しています。このプロジェクトには初めてクラウドファンディングを通じた支援者が加わりました。この春ゲストハウスとして生まれ変わる「みはらし亭」の再生作業には地元の小学生が授業などで参加し、私の息子もタイル作りに挑戦しました。このように次世代に文化が受け継がれていく様子を、尾道で日々私は目の当たりにしています。