雑煮といえば、具材や味付け、餅の形状など、各地域や家庭によってさまざまに作られ、実にバラエティ豊かな国民食といえるでしょう。
仙台風雑煮は、海の幸、山の幸がふんだんに用いられ、具沢山で美味ですが、そのビジュアルにも大いに驚かされます。お椀から大きくはみ出しながらも中央に盛り付けられるのは、1匹まるごとの「焼きハゼ」なのです。焼きハゼは出汁として使用されたあと、その姿を崩さぬように丁寧に取り出され、最後に盛り付けのメインとしてセンターに配置されるのです。
仙台風の具材で他に特徴的なものは、「ひき菜」という根菜です。ひき菜とは、大根、人参、ゴボウなどを千切りにしてさっと茹で、凍らせたものです。昔は屋外に晒して凍らせたといいますが、現在は家庭のフリーザーで凍結し、調理時に解凍して用います。一度凍らせた根菜は味染みがよく、出汁を含むと野菜のうま味が存分に引き出されて美味しさが増します。ひき菜は寒冷地ならではの常備菜として、雑煮だけではなく、煮物や炒めものなどにも重宝されています。
このほかにも、ズイキという芋の茎を乾燥させたものや高野豆腐を戻して細く切ったものが具材となり、焼きハゼと昆布などで出汁を取ったしょうゆベースのスープで、焼いた角餅に合わせるのです。トッピングは焼きハゼのほか、たっぷりとイクラが盛り付けられ、緑のセリ、ピンクの蒲鉾、そして香りづけの柚子皮など、見た目も鮮やかで豪華に彩られます。
年末が近くなると、藁で括られた焼きハゼは市場などの店頭に吊して販売されるようになり、市民は早々に買い求め、軒先などに吊して正月を待ちます。近年ではハゼの漁獲量が減り、焼きハゼを加工する業者が少なくなってきたことなどから、なかなか手に入りにくく、高価な食材となりつつあります。寒風になびく焼きハゼの姿は、年の瀬が近づいてきたことを感じさせる冬の風物詩のひとつとなっています。
(成田有紀子)