富山県では正月に各家の床の間に天神様の掛軸をかける風習があります。鏡餅や橙、串柿、昆布、神酒などを供えてお祀りします。
みなさんもご存知のとおり、天神様とは菅原道真のことです。富山県の天神信仰は、加賀藩祖の前田利家が道真の末裔であると称したことに由来があると言われています。加賀藩前田家の家紋は「梅鉢紋」です。道真の「東風吹かば匂(にお)い起こせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ」の和歌があるように、道真といえば梅が思い起こされ、加賀藩とはやはり何らかの関係があることが想像されます。
さて、富山県の天神様とはどのような風習であるのか。掛軸は、男子が生まれた年に、嫁の実家から贈られることになっています。家によっては、土人形の天神様や、井波彫刻の天神様である場合もあります。天神様は12月25日に迎え、1月25日に尾頭付きの魚などを供えた後、帰ってもらいます。1月2日に天神様の前で書き初めをすると書が上達すると言われています。私も小中学生の時には毎年、兄の天神様の前で冬休みの宿題をしていました。とても馴染みのあるお正月の床の間風景なのですが、実はこの天神様は長男だけのものなのです。次男以降は自分の天神様を持ちません。分家先に男子がおらず天神様がない場合は、お正月の床の間にはおめでたい掛軸をかけておくだけになります。また、祖父、父、子と代々の天神様がある場合には、天神様を何幅も並べてお祀りすることもあります。
今回は高岡市山町筋一帯の天神様祭を訪ねてみました。山町筋は土蔵造りの町並みが特徴で、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。今年で第18回目になる天神様祭では、歴史的建造物や資料館内、商店のショーウィンドーや店内の約30ヵ所に飾られた掛軸や人形を、自由に鑑賞することができました。代々伝えられた天神様には江戸時代に描かれたものがあったり、小杉焼のものがあったり。子どものころから親しんできた天神様ですが、改めて、自身も生涯にわたり研鑽を積み重ねていけるようにとお願いしてきたしだいです。
(加藤明子)