瀬戸内海に浮かぶ人口800人の島、佐木島。広島県にある三原駅から歩いて5分の場所にある三原港からフェリーに乗って約20分で到着する、新幹線の駅から一番近い島でもあります。
周囲約12キロメートルのこの離島は、柑橘やワケギの栽培が盛んで、島にも関わらず漁業で生計をたてている人はいません。それは、満潮時には海水に首まで浸かってしまう広島県の文化財・磨崖和霊石地蔵に、「東西南北各1町において殺生禁断の地とし、また、お地蔵さんの大神通力をもって、人々があらゆる悪い境遇に落ちないようにお守りください」という碑文が刻み込まれているため。島の人々は今でもそれを守り、殺生につながる漁業をしないからと言われています。
そんな人々が暮らすこの島に、1000人を超える人で溢れる日があります。「さぎしまトライアスロン大会」です。
1990年に島の活性化を目的に始めたこの大会は、毎年8月下旬に開催されており、第1回から29年間、島のほとんどの人がボランティアとして大会運営に参加しています。
港ではためくこいのぼりは、各家庭で使わなくなったものを集めています。港から向かいの小島にワイヤーを渡して、こいのぼりをぶら下げるという作業も島の人々が行っており、今では大会のシンボルになっています。
総合受付の周りには、たこめしや天ぷらなど、婦人会のみなさんの手作りのお惣菜がずらりと並び、明るい笑顔とともに選手の皆さんを出迎えています。
スイカエイドと呼ばれる給水所では、この日に旬をあわせて栽培した甘いスイカを配り、選手を応援しています。のぼりやステージの設営や、当日の交通整理までの運営を、60歳を超えた島の人々がすべて行っているのです。
佐木島は、他の離島と同様に毎年人口が減り続け、高齢化と過疎化が問題視されています。毎年、何かお手伝いを……と思い訪れますが、いつも大先輩たちの熱意とパワーに圧倒され、逆にたくさんの元気をもらって帰ることになるのです。
この島はあまり観光化されていませんが、春には桜、夏には海水浴、秋から冬にかけても登山やお大師さんめぐりなど、いつ訪れても楽しめます。また、2006年には「さぎしまを愛するボランティアガイド」が結成され,「来訪者の皆さんとの交流を大切にする」 ことをモットーに佐木島でのハイキングや海浜セラピーなどをご案内されています。
佐木島に足を延ばしてみませんか。橋も、信号も、コンビニエンスストアもない島ですが、とてつもなく魅力的な人々に会えることでしょう。
(月田尚子)