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アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

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#225

ホワイトウォールプロジェクト 福岡市美術館
― 福岡県福岡市

⑤

2019年、福岡市美術館のリニューアルオープンに際し、近現代美術室出口近くの壁面は、コンクリートから真っ白な壁になりました。この壁面を使った企画展が「ホワイトウォールプロジェクト」です。美術館側が、福岡にゆかりのある気鋭のアーティストに制作を依頼します。壁面を使った新作の制作と個展がセットになっており、壁画は3年間展示されます。
プロジェクト初回の担当アーティストは、福岡を拠点として活動する画家・田中千智(ちさと)さんです。田中さんは展覧会のほか、本の装丁画や新聞の挿絵、ビルの壁画制作など、幅広く活動しています。田中さんの作品は、アクリル絵具を塗り重ねて描く、深い黒色の平面的な背景が印象的です。背景以外は油絵具で描かれており、人物などが浮き出て見え、こちらにぐっと迫ってくる感じがします。また、人物の顔には眉毛が描かれていません。笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか、わかりません。見ている人の心の状態で、絵の印象が変わるかもしれません。

生きている壁画①

壁画制作は2023年の1月5日に始まり、来館者は制作風景を見ることができました。約3.14メートル×13メートルの真っ白な壁面が真っ黒になり、人物や木々、植物、フクロウやヘビ、オオカミなどが現れ、壁面が少しずつ変化していきました。この壁画は、美術館の外からもガラス窓越しに見ることができます。外の景色と壁画、自分の姿がガラス窓に映り、自分が今どこにいるのかわからなくなるような、不思議な感覚をおぼえます。
壁画制作は、1月31日に第1段階が完成しました。その後、2024年1月、2025年1月と1年ごとに加筆をおこない、画面が変化していきます。まさに作品タイトルの通り《生きている壁画》です。個展「田中千智展 地平線と道」は3月21日に終了しましたが、壁画は202512月末まで展示予定です。

「田中千智展 地平線と道」福岡市美術館
https://www.fukuoka-art-museum.jp/exhibition/whitewall/

参考
福岡市美術館編『季刊誌エスプラナード
』福岡市美術館、210号、2023年、pp.4-5。

(今長まゆみ)