年ごとに厳しさを増す酷暑で、外出を控えざるをえない日も出てきました。今夏は地域型芸術祭では最大規模の「大地の芸術祭」(新潟)が開催されます。鑑賞をご予定の方もいらっしゃると思いますが、何とぞご自愛ください。
強い日差しに汗を拭き、巡り歩く作品鑑賞スタイルは、美術館のそれと別物のようでいて、日常と離れた場の経験という所は共通しています。開催地の多くはいわゆる観光地でない、訪問者にとって見慣れない旅先だからです。作品を訪ねる旅が、未知の土地を見聞し、自身や日常を振り返る旅になり得ます。ことに奥まった集落や離島で開催されるときは、地域の諸課題への気づきや、豊かさへの再考が促されることも。それこそが作品や企画の意図するところでもあるでしょう。
しかし、全国に先駆けた上記芸術祭も初開催から20年近くが経ち、「地域」が意味するものも変わりつつあります。地方、地域はもはや都市の単純な対立項ではないし、里山里海といった原風景の不変性は地域課題の進行とともに揺らいでいます。そもそも人口減少や高齢化など「課題」なるものは先進国として、世界に先がけて経験している長期的な人口の移り変わり、すなわち現象にすぎないのではないか、という見方もでてきました。
さまざまな分野の地域事業参入がそうした変化を加速している背景も考えると、今後、もし土着の芸術活動を志すとすれば、俯瞰しつつも立体的な思考、他領域にもまたがる複合的な創造がより求められる。課題先進地の秋田から見渡して、そんな気がしています。
今回は最後に、そのような観点で参画している、「地域」を再考する旅そのものをプログラム化した秋田公立美術大学の「AKIBI複合芸術プラクティス 旅する地域考」(1)をご紹介します。同大学院が掲げる〈複合芸術〉(2)の実践、アートマネジメント人材育成と位置付けられた本企画では、夏と冬の年2回、全国から公募した受講生が国内外のゲスト講師とともに秋田県内を巡ります。
本稿がアップされる頃には夏編が進行中で、15名の受講生たちは舞踏家・土方巽の足跡が遺る羽後を皮切りに、男鹿、五城目を旅した後、個々の旅を経て表現者の視点を共有し、将来の企画を構想します。来年2月に実施する冬編の詳細はこれからですが、五城目をベースキャンプに、周辺自治体を含めリサーチする旅を予定しています。江戸期の秋田に逗留して優れた紀行を著した菅江真澄や、戦後、各地で語り継がれる民謡に独自の芸術を探り秋田に土着した劇団「わらび座」など、先例の旅もヒントになりそうです。ご興味ある方は特設サイトをぜひご覧ください。冬編ご参加も大歓迎です。
(小熊隆博)