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アネモメトリ -風の手帖-

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#228

「富士山」で遊ぶ
― 愛知県名古屋市

「今日は何をして遊んだの?」と親が子供たちに聞くと、「富士山に登ったよ」と得意そうに答える姿が見られます。兄は「てっぺんまで10回登ったよ」と自慢げに話しますが、妹は「途中で滑り落ちちゃった」とがっかりした様子です。この会話に登場した「富士山」に皆さんは登ったことがありますか? 実はこの富士山は、愛知県名古屋市を中心に点在する、子供たちが登ることができる遊具です。

名古屋市中区「葉場公園」の富士山は頂上付近の傾斜が強い形状です

名古屋市中区「葉場公園」の富士山は頂上付近の傾斜が強い形状です

「富士山のすべり台」と呼ばれるこのすべり台は、ピンク色の本体に頂上付近を白色で塗り分けたコンクリート製のもので、富士山を模して作られ、下部は緩やかな傾斜になっており、上部は急峻です。すべり台の一角には、頂上に登るのに役立つ石で足場が作られています。子供たちは、公園の中で一番高い遊具に登ることを楽しみ、その後滑り降りることを楽しんでいます。私は幼少期から運動が苦手だったため、遊具のすべり台の頂上を目指して駆け上がっても、ほとんどの場合は滑り落ちていたことが懐かしい思い出です。冒頭の親子の会話は、きっとどこまですべり台部分を駆け登れるか挑戦し、親に報告していた様子なのでしょう。
この富士山のすべり台は、昭和40年代に多くの子供が同時に遊べる遊具「プレイマウント」として、名古屋市昭和区の吹上公園に最初に作られました。通称「富士山」といいますが、葉場公園のもののように基本的な富士山と同じ構造のものから、様々な形のものまであり、画一的に作られていないことも魅力の一つです。
変化に富んだ例として、名古屋市中区の橘公園のプレイマウントは、富士山というよりはこんもりとした小山といった風情があります。すべり台部分は少しで、他の公園に比べるとより小さな子供でも登ることを楽しめる遊具です。

名古屋市中区「橘公園」の富士山。富士山には全く似ていませんが、地元ではこれも富士山の変化の一つとして受容れられています

名古屋市中区「橘公園」の富士山。富士山には全く似ていませんが、地元ではこれも富士山の変化の一つとして受容れられています

参考
牛田吉幸『名古屋の富士山すべり台』風媒社、2021年

(青山信子)